日本酒造組合中央会認証「日本酒スタイリスト」として精力的に活動を続けるタレントの島田律子氏が、日本の伝統文化、日本酒の魅力を深く伝えることで、海外からのお客さまをおもてなしするホテル、レストランの力を向上させるためのヒントをお届けしていく本連載。今回はコシヒカリで有名な魚沼の地で銘酒「八海山」を造り続ける八海醸造株式会社・株式会社八海山の代表取締役、南雲二郎氏にご登場いただいた。「求められているのなら、たくさん造らなければいけない」という先代の主義を受け継ぎ、日本酒はもちろん、副産物である発酵食品の販売、魚沼に国内外から人々を呼び込むための施設づくりなど、八海山ブランドを軸に未来に向けた展開を精力的に行なう南雲氏のビジネスセンスに触れることができた。オータパブリケイションズ代表取締役の太田進を交えた3回連続の鼎談、第2回をお伝えする。
感覚的に選ばれる嗜好品の場合
市場シェアの追求に意味はない
島田 300 石という小さな酒蔵から始まった八海山ですが、現在はどれくらいの規模になっていますか。
南雲 3万3000 石です。私たちが造っているのは嗜好品ですから、従来のやり方を続けていればどこかで限界がやってきます。限界が見えてから八海山という酒のブランド力を使って酒をさらに伸ばしていこうとするならば、良くも悪くも別のステージを目指す必要が出てきます。「買ってください」と無理ばかりしていると、ブランドが傷むと私は考えているのです。
高品質な日本酒がいつでもどこでも当たり前に手に入るような環境を目指すことが私たちの量産のテーマだったわけですが、今では日本の6大都市に行けばだいたいどこでも八海山を飲めます。私たちの当初の目標は達成したと言っていい状況になったわけです。
私たちが造っている酒という嗜好品は抽象的、感覚的に選ばれることから、獲得できるシェアには限界があります。日本酒のシェアは3%程度獲得できれば、消費者の方々がいつでも手に入れることができる環境が整うのです。
八海山は一升瓶で2000 円以上の品物しか造っていません。日本酒全体の生産量は約290 万石で、その内おそらく約80 万石から90 万石が2000円以上の市場だと思います。そうすると3万3000 石の八海山のシェアは4%程度です。ですからこれ以上、シェアを伸ばす意味はないというか、市場もそれを望んでいないと思います。そうは言っても会社が現状維持に走ればどうしても業績が下がることになりますから、常に発展を目指していかなければなりません。
日本酒の醸造は非常に複雑で、その過程でさまざまな品物が生まれます。日本酒の醸造技術を持っている私たちは、「米」「麹」「発酵」をテーマにした商品を創り出し、その物販を実店舗や通信販売で展開する道を追求することができます。
この考え方から生まれたのが、「千年こうじや」というブランドです。現在6店舗の千年こうじやのブランドをさらに育てて、カタログでも注文していただけるメジャーなブランドにまで持っていく、今はその途上にあるのです。