島田 律子(しまだ・りつこ)
スマイル ブリュー カンパニー代表・タレント・日本酒スタイリスト(日本酒造組合中央会認証)。
日本酒関連の講演・イベントの司会や出演など年間50 本以上をこなす。
TVや雑誌などのメディア出演・コラムの執筆も多く、イベント、飲食店、百貨店、酒器のプロデュースやコーディネートなど、日本酒の魅力を伝える活動は国内外を問わず多岐にわたる。近年、女性ならではの視点から、日本酒の美容・健康効果に着目。日本酒の美肌・美白・アンチエイジング効果を取り入れたライフスタイルを提案し、自らもその生活を実践する。2016 年にはSMILE BREW COMPANY を立ち上げ、「日本の美を日本酒で」をテーマに『オトナの日本酒TASHINAMI 塾』を主催する。HP:http://www.smile-brew.com/
北原対馬(きたはら・つしま)
1982 年山梨県北杜市白州町生まれ。2001 年3月山梨県立韮崎高等学校
卒業。05 年3月青山学院大学経済学部卒業。05 年4月山梨銘醸㈱入社。05 年〜07 年米国Pacific International Liquor, Inc. にて研修。全米の日本食レストランへ日本酒の営業。11 年専務取締役に就任。
北原亮庫(きたはら・りょうご)
1984 年山梨県北杜市白州町生まれ。2002 年3月山梨県立韮崎高等学校 卒業。06 年3月東京農業大学醸造科学科卒業。06 年4月山梨銘醸㈱ 入社。06 年〜08 年岡山県真庭市勝山の㈱辻本店に出向。08 年国税庁醸造試験所にて清酒製造研修。11 年常務取締役兼醸造責任者に就任。
日本酒造組合中央会認証「日本酒スタイリスト」として精力的に活動を続けるタレントの島田律子氏が、日本の伝統文化、日本酒の魅力を深く伝えることで、海外からのお客さまをおもてなしするホテル、レストランの力を向上させるためのヒントをお届けしていく本連載。今回は南アルプスのふもと、山梨県北杜市で地元・白州の名水の素晴らしさを体現した日本酒「七賢」を造り続ける山梨銘醸にご登場いただいた。「老舗として変わらずに商売を続けていくために必要な変化」をもたらす改善と改革を推進してきた北原対馬氏、亮庫氏兄弟の発想法に、弊社オータパブリケイションズ代表取締役の太田進を交えた2回連続の鼎談で迫る。
酒の断捨離から改革をスタート
「七賢」らしさを明確にしていった
島田 山梨銘醸「七賢」は、ここ数年で彗すいせい星のごとく現れた話題の酒蔵です。ここ2、3年の間に急速に知名度を広げていくことができたのはなぜなのでしょう。
対馬 私たち2人が山梨銘醸に入社して、まだ約10 年しかたっていません。当時は会社がとても苦労している時期で、お酒がとにかく売れず、経営が厳しかったという背景がありました。私たちは5年間ほど思い当たる営業をすべてやったつもりなのですが、どうしても結果を出すことができませんでした。
そこであらためて何が問題なのかを考えて、それはプロダクトであるという結論に達しました。そこで2010 年に、2人で会社としての製造戦略と営業戦略をしっかりと作ることにしました。3年間、会社が終わってから夜中までずっと話し合いをしていました。
そのように時間をかけた検討の末に導き出した答えに基づいて進んでいるので、今ではほとんど迷いはありません。その結果として、おかげさまで現在のような知名度の向上へとつなげることができているのかと思います。
太田 導き出した戦略の内容を教えてください。
対馬 私たちが入社した当時の山梨銘醸は、山廃や古酒に至るまで、多くの日本酒のラインアップを抱えていました。そんな中で「七賢」が使っている軟水の特性を思えば、香りが華やかですっきりとしたタイプの酒という方向性は自ずと決まってきます。そこが決まれば、酵母、米、精米についても具体的な方向性が見えてきます。その考え方をベースにした改革として、酒のラインアップの“ 断捨離” から着手しました。
まず品数を絞り込み、その中でPBは全廃しました。それから取引先様の見直しもさせていただきました。商品数を減らしたことで、酵母など原料の特定品種もどんどん狭まっていきました。
酒のラインアップの統廃合は、毎年のように春夏と秋冬でそれぞれ行なっていきました。私たちが入社したときに40 銘柄以上あったラインアップを、3年間の春夏・秋冬計6回かけて減らし続け、2018 年にはついに定番のNBが10 銘柄になります。商品数を減らすと造りやすいし売りやすくなりますし、商品としてものメッセージも強くなります。
亮庫 「七賢」らしさとはどこにあるのかを明確にしない限り、造っている自分たちもモチベーションが上がりませんし、お客さまに対しても説明がつきません。山梨の地で創業して二百数十年の酒蔵として何をするべきなのか、原点に立ち返りながら活路を見出していくためにも、「七賢」に当てはまらないものを削ぎ落とすプロセスが求められました。
断捨離を進めて最後に残ったものが「七賢」です。その一本に向かっていくことで、造りにおいても無駄打ちがなくなってきました。私も絞り込まれた一つのターゲットにしか投げないので、それによって自然と商品がとんがってきたという気がします。