全国各地で“ ご当地コンテンツ” を発掘し、活性化を目指す動きが活発化する現在。「食」もその重要なファクターであり、ご当地グルメや地域独自の食材が注目を集めている。この連載では、さまざまな料理人の方に、食材との向き合い方や、料理に使われている地域独自の食材、その調理法などについてインタビュー。お話を通じ、地域独自の食材の掘り起こしと、ホテルや飲食店における差別化、生産者や行政のPR 法の糸口となることを目指していく。記念すべき第一回は、ミシュラン3 ツ星の料亭「菊乃井」の総料理長であり、国内外で日本料理のPR や食育活動を展開する村田吉弘氏に登場いただいた。
菊乃井 代表取締役・総料理長 村田 吉弘 氏
食材に「おいしい」「まずい」はない
持ち味を生かすことが料理人の使命
❐ 料理人の食材との向き合い方は、どうあるべきだと思われますか。
究極を言えば、食材においしい、まずいはありません。作り手が食材の使い方を誤った料理があるだけです。料理を作る側が食材を知り、「ことわり(理)をはかり定める」ことが「料理」の基本。酸っぱくても、苦くても、その風味を生かすことが料理人の仕事であり、そのために知識と技術があるのです。
また、昨今は有機野菜やオーガニックが重用される傾向がありますが、健康を害する農薬が使われているもの以外は、もっとフェアに見るべきではないでしょうか。例えばイチゴは本来2 ~ 5 月ごろが旬ですが、固く酸味のあるこの時期のイチゴはショートケーキには適していません。ビニールハウスで育てられた、ふわふわで甘いイチゴのほうが合っています。逆にソースやドレッシングなら、酸っぱいイチゴが適していることもあります。要はどのような料理に、どのような形で、どのような味として使うのか、料理人がビジョンを描いて食材と向き合わなければいけないということです。もちろん、その根本には常にお客さまがいて、相手のお好みや年齢、食べる状況なども考える必要があります。
そして、お客さまごとに最適な料理のビジョンを描くためには、生産者と密にコミュニケーションを取って、食材をよく知る必要があります。ときには漁に同行し、ときには農作業を手伝いながら、何度も通って、作り手がどれぐらい思いを込めて食材を作っているのか、食材の味は、調理したらどう変化するのか、品質の見定め方は…など、生産者から知識を学び蓄えるのです。最近、地方の畑などに出かけて行って、一度だけ生の状態で野菜を食べ、「おいしいから仕入れることに決めた」というような話をよく聞きますが、それでは不十分ではないでしょうか。
さらに、そうして一度信頼を築いた生産者は、大切にしなければなりません。良い食材を不当に値引きさせるなど、こちらの都合ばかり言っていたら、良い食材は回って来ません。生産者も人間です。大切に育てたものであるほど、価値を理解し、それに見合う料金を払う相手に良いものを渡したいものです。