奈良県 まちづくり推進局理事/観光局理事 中西 康博氏
奈良県が掲げる富裕層顧客の獲得に向けた民間の動きとして、RHS(Ryokan& Hotel Selection - NARA -)の紹介を本号14 ~ 17P にて紹介を行なったが、他にもILTM への出展や県内500 ヵ所へのWeb を利用した多言語化対応など、近年奈良県内における観光への取り組みは目に見える形で大きく変化を遂げている。この変化の背景にはどんな思いがあり、今後どのようなことを目指していくのか。今回はその取り組みを振り返るところからお話を伺った。
❒RHS 結成発表会の中でもあったように、数年前から奈良は国内外の富裕層獲得に向けた活動を行なっていますが、今回はその決断にいたるまでを伺いたく、まずはこれまでの県としての観光産業発展における取り組みについて伺えますか。
当たり前ですが観光誘客は今に始まったことではなく、以前から県として行なってまいりました。ただしその効果はと申し上げますと、思ったような実績として表れていなかったと言わざるを得ないのではないでしょうか。理由はいくつかあると思いますが、外部への発信という部分で「来庁する人の話は聞いていたけれども、現場の声をきちんと聞けていなかった」。周囲からの声を受け、紙媒体やWeb 媒体への掲載によるPR を行なってはいましたが、結果誰に、何を届けるのかという基本的な軸がぼんやりとしていました。
また戦略的な面では、観光客の消費における認識の甘さから「観光客はいるが、あまり地域経済への影響が見られない」という現象が起きてしまっていたのです。
❒ 具体的には何が起きて、その要因はなんだったのでしょうか。
今日でも改善すべき課題のひとつですが、奈良は日帰りで訪れる方が非常に多い地域です。日帰りのお客さまですから宿泊施設はもちろん利用されませんし、食事や飲み物に関しても自宅から持参したり、県外の宿泊先付近で購入されるケースが非常に多い。要するに、お客さまにとって交通機関での消費はあっても、肝心な奈良県内での消費の必要性がほとんどなかったというわけです。訪問者数だけを見れば一定の需要はあるという風に映るので、行政としては「奈良公園は観光客の利用があるから大丈夫。次は別の地域への誘客だ!!」となるわけです。
商談前のILTM 会場内。和やかな雰囲気の中で、準備とともに徐々に気持ちを切り替えていく