世界最大の事業用不動産サービス会社CBRE グループの日本法人であるシービーアールイー株式会社は、法人向けに不動産賃貸・売買仲介やプロパティマネジメント(PM)、不動産鑑定評価などを全国規模で展開するトータル・ソリューション・プロバイダーだ。CBREホテルズ・アドバイザリーでは外資系ラグジュアリーホテルのオペレーター選定をはじめ、新規ホテル開発のフィジビリティスタディーなど各種アドバイザリー業務も提供する。
直近では「アクサ札幌中島公園プロジェクト」における「インターコンチネンタル札幌」や「(仮称)京都三条河原町ホテル計画」における「ヒルトン京都」のホテルオペレーター選定を支援した。本項ではこれらのプロジェクトの支援を手掛けた奥山 貴雄氏に、同社の強みやオペレーター選定における注目点などを伺った。
シービーアールイー株式会社
バリュエーション・アドバイザリー&コンサルティング・サービス
コンサルティング・サービス ストラテジック・ソリューション
アソシエイトディレクター
CBREホテルズ・アドバイザリー
奥山 貴雄氏
現場経験に基づく説得力がオーナーからの信頼に
■初めに貴社のホテルアドバイザリー業務の受注実績について教えてください。
弊社はホテルコンサルティングのオペレーター選定という分野においては後発組です。私は2018年に入社しましたが、この5年間で数倍まで受注が増えております。内容は新規開業案件が多いですね。事業主またはホテルオーナーから対象の地でホテル事業が成立するのかという相談をいただき、フィジビリティスタディー、事業性の検証などをレポートチームが請け負い、そこから一緒に進めていくケースが圧倒的に多いです。
■それでは実際のホテルオペレーターの選定の流れについて教えてください。
まず、オーナーと一緒にプロジェクトの実現性や事業採算性などを検証するフィジビリティスタディーから始まります。そしてフルサービスホテルにするのかなどセグメントを決め、ラグジュアリーでいくか、アップアップスケールにするかなどのカテゴリーを決定し、要件整理を行なった上で候補者リストをつくります。このあと候補に挙がったオペレーターに当社が打診し、RFP実施要項書を一斉に配布して提案書をつくってもらいます。大体2カ月ほどの期間を得て提案書を受けとり、コンペティションを経てオペレーターを決定するという流れです。
提案書はある程度のポイントを抑えた上で杓子定規にならず、オペレーターの個性が出るよう自由提案してもらっています。そうは言っても事業期間は20〜30年、投資額も何百億円、何千億円にもなる総合開発もありますので、弊社ではかなり細かく30項目以上を確認しています。ホテルブランドのほか、想定されるADR、稼働率、RevPAR、キャッシュフロー、GOPなどを確認させていただき、数字の蓋然性や達成するための営業戦略も伺います。ターゲット、デジタルマーケティング、海外と日本の割合、グループ客の比率、販売チャネルミックス、レベニューマネージャーがどこに設置されるか、場合によっては使用するPMSなども確認します。
■受注が急増していることに関しまして、オペレーターを選定するに当たっての貴社の強みとは。
さまざまなホテルコンサルティング会社がそれぞれのソリューションをお持ちですが私が知る限り、現場を踏んでいるコンサルティングチームは意外に少ないと感じています。その点、私自身がホテルマン出身ということもあり、ホテルのキャッシーフローにおいても数字の背景に何があるかなどもすべて熟知していますので、そうした現場経験に基づく説得力がクライアントさまに評価をいただいていると思っています。
例えば、料飲部門には聖域的な部分があり、特に料理の原価はシェフや板長の範疇で進言しにくいものです。その点、私にはシェフの知り合いも多く、どうやったら原価を下げられるかを提案できます。また、単純に原価を下げればよいわけではなく、市場を介さずに直接農家と提携すれば、原価を落としながらフレッシュでよい野菜を仕入れることができるなど原価コントロールの提案も可能です。
宿泊部門ではシーツのリネン費が1部屋当たり300円のホテルもあれば500円のホテルもあります。オーナーから見るとその違いが分からないでしょう。細かい話をすると1㎡当たりのスレッドカウント(織り目の数)で価格が異なり、ラグジュアリーホテルであれば500スレッドカウント以上を使用しているのでコストもそれなりに掛かります。200スレッドカウント以下にするとリネン費を抑えられますが、ホテルグレードとの兼ね合いも必要となります。こうしたホテルの商品性を細かく説明がきちんとできることが強みです。
また、ホテルマン時代から三十数年にわたってホテル業界に関わってきたネットワークがあります。現場で一緒に働いていた先輩、同僚、後輩たちが、いまでは総支配人や総料理長になっており、ハウステンボスのホテルヨーロッパで働いていたときの総料理長と総支配人であった尊敬する恩師の上柿 元勝氏は、いまはエスコフフィエ協会の副会長であり、クラブ・デュ・タスキドールの会長となっています。こうした人脈があることも強みだと思っております。
オーナー・オペレーターが同じベクトルを向いて二人三脚で歩むことが、良いホテルづくりや投資リターンへ寄与
■提案を受けてホテルオペレーターを選ぶ際に留意するのはどのような点ですか。
いまはインバウンド需要が多いですが、新型コロナのようなパンデミック、SARSや国際金融危機などでインバウンドが落ちたときにリスクヘッジできるかという問題もあります。さらに、オーナーがどのようなホテルを望んでいるかという観点も持っていないとなりません。ファンドのように3〜5年先に売却するというような考えでなく、利回りやNOI、IRRが低くてもよいから長期安定を望むのなら日系のお客さまを大事にできるホテルがフィットすると思います。
また、マーケティングビークルがきちんと成立しているホテルオペレーターはうまくいっていると感じます。最初に企画立案があって商品づくりを行ない、それをSNSやデジタルマーケティングを駆使してPRするチーム、刈り取る営業チーム、結果を調査分析してフィードバックするチームが連続的に機能するなどです。
■外資系ホテルオペレーターが選ばれるケースが多いようですが、その強みはどこにあるのでしょうか。
一番大きいのはヒルトンやインターコンチネンタルなど、世界中の誰しもが知るブランド力だと考えます。2つ目のポイントはグローバルな集客力です。ロイヤルティプログラムのメンバーが1億人、2億人といますから。3つ目は運営ノウハウを蓄積していることです。
いまは外資系ホテルオペレーターが強いですが、インバウンドの中には、日本に来たら日本のカルチャーを感じられるホテルブランドに泊まりたいという需要もあります。日本だけでなくそこにしかないインディペンデントホテルがこれからもっと注目されてくると予感していますので、日本のホテルオペレーターにも期待を持っています。
■昨今、オペレーターとの契約形態に変化はありますか。
契約形態は100%固定賃料というのはコロナパンデミックを経てほぼなくなりました。変動賃料が占める割合が高くなり、100%変動賃料というケースもあります。これまで賃貸借契約しかやってこなかったオーナーから見ると、もはやMC契約とそれほど違いがなく思われ、運営委託を受け入れるオーナーも増えてきました。そうなるとますますオペレーターの運営力が求められますね。
■オーナーや事業主はどのような観点でホテル事業に取り組むべきだとお考えですか。
ホテル事業は長いスパンの事業でオペレーショナルアセットなので、オペレーターの運営手腕によって成功もすれば失敗もします。だから、単純にGOPがよいからこのオペレーターに決めようというものではなく、しっかりとその数字の根拠、中身(背景)を理解できることが重要だと考えています。
数字だけを見てホテルオペレーターを選ぶのならホテルに投資しなくてもよいかもしれません。それぞれのホテルにブランドストーリーやコンセプト、アイデンティティ、フィロソフィーがあり、それらが運営の数字に乗っかってくることを見ていただきたいのです。ホテルは多くのサービスマン、多くの料理人たちなどプロが集まり、その人たちを大事に育てていくことでブランドが成長していくビジネスです。
時々、オペレーターとの契約交渉等において勝ち負けを言われるオーナーもいますが、ホテルは建物が竣工してからが本当のスタートなのです。それから20、30年と多くのお客さまに来ていただき、365日24時間、安心安全を預かっていきます。くれぐれもオペレーターと二人三脚で同じベクトルを向いて足並みを揃えていただかないとよいホテル、オーナーへのリターンのあるホテルはできないことを僭越ながら伝えています。また、ホテルには多くの従業員とその家族もいるのでどうかその覚悟を持ってホテルに取り組んでいただきたいと、切にお願いしています。
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聞き手・オータパブリケイションズ 臼井
文・アクセント