企業においても社会的責任が重要な役割を占める今日、ポジティブなアウトカムだけでなくリスク管理の対応も欠かすことができない。ITサービスの普及に伴い、AI/IoTをはじめとする新規技術によって潜在的なリスクを可視化できるようになってきた。ホテルにおいても、災害以外にも食にまつわるリスク管理は必要不可欠になってきている。「HACCP(ハサップ)」の対応や「食品アレルギー」への対応がその一例だ。
そうした食にまつわるリスク管理のソリューションを提供しているのが、インフォコム(株)だ。医療・企業・公共機関向けのITサービスや電子コミック配信サービス等のネットビジネスを展開する同社は、温度管理IoTサービス「データウオッチ」と情報管理ポータルシステム「BCPortal」を提供している。DXを上手く活用したリスク管理を行うにはそうすればよいのか。事例を踏まえつつ、インフォコム(株)の課長 宇都宮氏に話を伺った。
▶最近食中毒のニュースを目にする機会が多い気がします。食品衛生におけるリスク管理で必要な視点は何でしょうか?
インフォコム(株)課長 宇都宮氏
宇都宮 CCP(クリティカルコントロールポイント)中でも重要な保管温度、加熱温度、冷却・解凍温度が正確に管理されているかが、ポイントになります。今年は「恵方巻」の食中毒事故が複数発生しましたが、その原因は「黄色ブドウ球菌」になります。黄色ブドウ球菌は10℃以下の環境でほとんど増殖できないため、食材は冷蔵庫などで10℃以下保管する必要があります。それをきちんと正確に測る仕組みがあれば、事故が発生する可能性を下げることができます。
▶様々な温度管理をIoTで自動化するIoTサービス「データウオッチ」ですが、どのようなニーズがあり開発が行われたのでしょうか?
宇都宮 IoTがバズワードになる少し前の事でした。スマートデバイスのコンサルティングを受け持つお客様とお話ししている時、ヒントが2点ありました。
1つ目は、人手不足が深刻で、毎日の温度記録、日々記録する帳票が15種類もあって何とかならない?と言われたこときっかけでした。2つ目は、納入業者が深夜に納品してくる際、冷蔵庫を開けっぱなしにしたため食材が使えるか分からず、その日はホテル内のレストラン営業を停止せざるを得なかったという事故事例を伺った事でした。
大手のお客様にもその様なお悩みがあると感じ、企画を開始。当社に安否確認サービス「エマージェンシーコール」があり、この製品は安否確認時にメール通知だけでなく、電話、FAX、LINE通知という武器があった事もあり、IoTと組合せ「正確な記録保管」「緊急時に確実に連絡する」事が可能!と思いリリースしました。
▶実際、導入によってどのような効果が見込まれるのでしょうか?
宇都宮 まずすぐに効果が発揮される事例は、従業員の手書き記録作業がなくなる事です。次に正確な温度記録が記録されることです。人による記録作業はどうしてもその人のリテラシーに依存します。またルーティン作業になる為、高い衛生管理意識を保たないと正確な温度記録が期待されません。それがIoTを活用してデジタル化することで、作業の削減、正確な温度記録の両立が実現します。
▶ホテル業界での導入事例はありますでしょうか?
宇都宮 データウオッチご利用ユーザーとして、星のや沖縄様と宇奈月温泉やまのは様の公開事例があります。両社の共通課題として、食品温度を含む日々の衛生管理記録作業の増加と従業員を増員するのが難しい状況下にありました。一方で2021年6月にHACCPに沿った衛生管理の義務化が開始されるのを法制度の改定を機にデータウオッチの採用を決め、温度記録作業の自動化と正確な情報収集を実現しました。
また、温度管理の記録においては、食材の保管だけでなく、調理したものが正しい温度帯で加熱されているかについて記録を残すことも重要です。データウオッチでは、いつ・だれが・何の料理を計測しその中心温度もデータで記録が行えます。揚げ物については油温にCCPを設定し、正しい油温で調理できていることを記録するために、温度記録を実施いただいているお客様もいらっしゃいます。
▶予期せぬリスクもあると思います。例えば機器の故障や災害など、そうした非常時の場合はどうでしょうか?
宇都宮 「予期せぬリスク」は多発しています。最近の事例は台風や地震などが挙げられます。弊社の顧客事例で申し上げると、2023年8月台風6号により沖縄のホテルで停電が発生しました。その時は夏だったということもあり、大勢の宿泊者が滞在した状況で、冷蔵・冷凍庫が一時的に止まってしまいました。「データウオッチ」では停電時、通信断時に温度センサー内にデータを保持し、復旧後に保管したデータをクラウドに戻す仕組みを提供しております。そのため、停電が復旧した際に、停電時間の間の冷蔵・冷凍庫の庫内温度が問題ない事を確認できたため、宿泊客に食事を提供することができました。この仕組みがなければ、食材に問題がないか確認するエビデンスがないので、食材の廃棄(フードロス)により食事の提供ができなかったと考えております。
▶調理場のリスクは温度管理以外にもあると思います。他の管理や効率化についてはいかがでしょうか?
宇都宮 温度管理と同様に一般衛生管理作業の効率化もホテル業界では重要だと考えております。
多くの企業では衛生管理の一環として従業員の手洗いや体調管理、清掃を紙で記録、保管しております。また新たなスタッフへ作業手順のトレーニング実施に際し紙のマニュアル配布など、時間とコストが発生しております。当社ではBCPortal for HACCPという情報一元化サービスを提供しております。このサービスの活用で、タブレットやスマホで衛生管理の記録、マニュアル類の閲覧ができ紙の記録を廃止、作業手順書の電子化を実現することができます。その履歴は遠隔地からでも確認できますので、管理者の作業削減にもつながります。
▶BCPortal for HACCP導入の事例や具体的な活用方法はどのようなものがありますか?
宇都宮 BCPortal for HACCPはペーパレス対応以外に、従業員同士のコミュニケーションツールとしてご利用いただけます。ご利用イメージは、グループLineやX(旧ツイッター)のように関係者と即座に情報を共有することが可能となります。
例えば、食品アレルギーをお持ちのお子様(A様)がいらっしやった際に、BCPortalの中にチャットグループを作成し、調理部門・サービス部門の関係者が参加します。提供するメニュー・アレルギーに関して、そのチャットのグループ内で即座に情報共有を行うことが可能となります。また、特に重要な内容についてはメッセージ確認の履歴を要求することもできます。
直接話ができない環境であったとしても、正しく情報共有が行えることで、事故を未然に防ぎお客様への提供サービス品質向上につながります。
▶近年データサイエンスも大きな需要があり、データを保有していることが企業の一つの強みにもなっています。データウオッチで取得したデータはどのように他に活かすことが可能なのでしょうか?
宇都宮 そもそも、AIやDXを目指す前にデータを持つ事が大切とセミナーや商談でお話ししています。データが無いものにAIは活用できませんので。
現時点ではChatGPTのGPTs(独自ChatGPT)や、他AIを使い、センシングデータである温度(湿度対応予定)と、機器、導入時期、メーカー等のデータからリプレイス前の機器性能を調べリース期間延長し、経費削減のお手伝いをしたりする事に活用しています。
今後、新たなセンサーデータや、お客様が持つPOS、来店データや、販売パートナーとの連携(例カメラデータ、感情データ)をし故障予知、売上予測補助、レイアウト、最適配置等にチャレンジできたらいいと考えています。
▶リスク管理としての可視化だけでなく、データ活用としてDX化やIoTの積極活用が競争スピードの激しい今日より必要になっていると思います。こうした基盤構築に必要な視点はなんでしょうか?
宇都宮 昨今、様々な業界でデータ活用の検討がされていますが、はじめの一歩は「データ」を保有することです。データを収集する仕組みがなければ、データを保有することができません。当社としてはデータウオッチで温湿度情報と電力消費データを組み合わせることで、厨房機器の劣化状況の把握やレストランの温湿度データとビュッフェの売れ筋データから新たな価値ある情報が見出せることができるのではないかと考えております。
データが多い程、その精度は高まるので、まずはデータ収集の基盤を用意することが重要です。
▶最後に、今後の展開についてお聞かせ下さい
宇都宮 データウオッチの今後のサービス展開として、ホテル業界の既存顧客からビュッフェのお料理や食材受け入れ時の表面温度の自動記録や温泉の残留塩素濃度の自動測定の要望を受けて対応方法について検討を始めております。今後もホテル業界に寄り添ったサービスの展開を進めていく所存ですので、是非皆様のお声を聞く機会を賜われれば幸甚に存じます。
【お問い合わせ先】
インフォコム株式会社
スマートビジネス部 データウオッチ担当
smart2@infocom.co.jp
https://data-watch.cloud/