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ホテルザフラッグ 医療従事者支援プロジェクト

やればやるだけ増える赤字。それでもなぜやるのか?「ホテル事業者として」の想い

2020年04月30日(木)
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4月24日にクラウドファンディングを活用した医療従事者の無料宿泊支援プロジェクトを公表したホテルザフラッグ㈱。2000円分の支援で医療従事者に一泊の無料宿泊を提供。寄付者は1000円からこのプロジェクトを支援できる。クラウドファンディングの支援を得ているとはいえ、コストはそれを上回る。ただでさえ新型コロナウィルスの影響でホテル経営は大赤字の中、一泊ごとにその赤字は膨らんでいく。それでも、なぜこのプロジェクトに踏み切ったのか? 同社代表取締役社長の信田光晴氏の想いをレポートする。(取材・文 岩本 大輝)
 
 
医療従事者は「偏見」、「差別」に苦しんでいる
 
新型コロナウィルスの拡大で日本のみならず世界中が大きな影響を受けている。
誰もが罹患したくはないし、愛する家族や友人が苦しむ姿を見たくない。それでも押し寄せてくる現実…。
 
それを、少しでも食い止めたいと日々罹患の危険にさらされながらコロナウィルスとの戦いの最前線に立っているのは、医師や看護師など、医療現場の人たちだ。
 
目の前の患者のため。ひいては国のためでもある。必死で最前線で頑張る彼・彼女らを、苦しめる現実が一方である。
 
「偏見」や、「差別」だ。
 
あるニュースを見て衝撃を受けた。
 
「コロナがうつるから乗るな! 扉を閉めてくれ」
 
ある病院職員が、バスに乗ろうとした際にほかの乗客から叫ばれたという。

その病院は、数日前に新型コロナウィルスの中等症患者の専門受け入れ病院となった。

コロナの最前線で闘う人たちが、ただバスに乗ろうとして中傷を受ける。 
 
これは、ほんの一例でしかない。
皆さまもいくつかのニュースでご存知かもしれないが、患者を助けようと尽力する医療従事者たちが、さまざまな形で偏見、差別を受けているのだ。
これによって、そうした受け入れを公表した病院では退職も出ているという。
 
そう叫んだバスの乗客、医療従事者、それぞれの事情がある。
しかし…、心苦しさを感じるのは筆者だけではないだろう。
 
同じように、その現状を心苦しく思い、「何かしら役に立てないか」と考えたホテル経営者が、一つのプロジェクトを公表した。
 
 

クラウドファンディングを活用した医療従事者の無料宿泊支援
 
信田光晴氏。
大阪・心斎橋に「ホテルザフラッグ心斎橋」を経営するホテルザフラッグ㈱の代表取締役社長だ。
 
信田氏はもともとはホテル経営者ではなく、金融出身。銀行、投資会社などを経て2018年に縁あって心斎橋でホテルザフラッグ心斎橋を開業。なんと、開業約一年後には口コミサイトTripadvisorで大阪市内口コミナンバーワンを獲得するホテルを実現し、業界にも大きな衝撃を与えた。
 
ところが、今回の新型コロナウィルスの影響で信田氏の経営するホテルも休業を決定。
もともと欧米客からの評価が高く、主要顧客であったインバウンドマーケットの消滅もふまえた経営判断だ。
 
ただ、信田氏はそれで終わらなかった。
 
「宿泊業に関わる人間として、新型コロナウィルスの影響で苦しむ人たちのために何かできないか?」という思いが、ずっと心の底で疼(うず)いていたのだ。
  
キャッシュだけ考えれば、今は何もしないことが得策だ。
この新型コロナウィルスの問題で、家賃など固定費もありホテル経営は大赤字。それは仕方がない。
おとなしくしていて、嵐が過ぎ去った後にまた営業を再開する。これが、一番傷(キャッシュの減少)が小さいプランと言えるだろう。
 
やれば、赤字が拡大する今回のプロジェクト。
それでも、なぜ行なうのか?
 
改めて言う。信田氏は、「宿泊業に関わる人間として、新型コロナウィルスの影響で苦しむ人たちのために何かできないか?」と真剣に考えたからだ。
 
 

クラウドファンディングで支援を受けても、
ホテル経営の赤字は拡大する

 
今回、同ホテルはクラウドファンディングで資金を集め、2000円ごとに医療従事者に無料の宿泊を一泊提供しているが、儲かるどころか、それによって同社の赤字は拡大していく。これは、ホテル関係者では当然分かるかもしれないが、一般の方は分からないかもしれない。
 
今回の宿泊の前提が、
 
食事提供:なし
シーツ交換: 3日に1回(セルフ交換)
バスタオル・フェイスタオル:毎日使い捨て提供
ゴミ回収:毎日回収(部屋前に出したゴミを毎日回収)

※上記同ホテルHPより
 
とはいえ、宿泊に伴うシーツやタオル、枕カバーなどのリネンコスト、退室後の清掃費用。ゴミなどの廃棄コスト、水道光熱費、スタッフの人件費を考えれば当然それ以上のコストがかかるのだ。
 
 
 
オーナー、ホテル、パートナー、
それぞれの想いでプロジェクトは実現

 
本プロジェクトは、ホテルザフラッグ心斎橋だけではなく幅広いホテルの関係者たちの理解や想いが重なり実現をした。
 
先の通りホテルは赤字が膨らむ。それだけではない。営業再開後の風評被害も考えられるし、スタッフへの感染リスクもある。
他ホテルでも同様のことを考えながらも、一部のスタッフの強烈な反対を受けて断念するところもある。それでも、ホテルザフラッグは貫く。
 
「ここでホテルが逃げてしまったら、医療従事者の方は行くところがなくなってしまう」(信田氏)
 
実際、医療従事者の中には、家族に感染をさせるリスクを恐れ、自身の車の中で車中泊を続ける人もいるという。
食事も、感染リスクから人との接触が極力少ないインスタントラーメンなどを毎食食べている人もいるという。
 
ホテルだけではない。ホテルの貸主であるオーナーも、営業再開後の風評被害(=賃料収入の減少)を考えれば、事前に理解を得なくてはならない。さらに、リネンサプライヤー(シーツなどを洗濯してくれるパートナー企業)も、残念ながら通常の企業は医療従事者を泊めたホテルのリネンを扱いたがらないのだ。これも、想いのあるリネンサプライ企業の社長の協力によって実現をした。
 
そして、今回クラウドファンディングのプラットフォームである「宙とぶペンギン」を運営する㈱デジサーチアンドアドバタイジングも、今回のクラウドファンディングのマージンを徴収をしていない。
 
実は、そもそもを言えば本プロジェクトは㈱デジサーチアンドアドバタイジングの代表取締役である黒越誠治は信田氏の大学の同級生であり、今回の新型コロナウィルスの問題を受け、「何か自分たちにできないか」と持ちかけたのが黒越氏だったのだ。
 
 
ただ、収益事業としてのホテルを運営するだけではない。
世の中が非常事態に陥る中で、目先の収益だけにとらわれず、ホテル事業者として、今、できることを考える。それを、パートナーの理解、スタッフの理解を得て、形にしていく。
 
目先のキャッシュだけを考えればやるメリットは一切ない。
それでも、事業者としての想いが、人々の理解を得て、広がっていく。
 
今、誰もが大変な中で、事業者としての存在意義について考えさせられる、ホテルザフラッグの取り組みだ。 (取材・文 岩本大輝)



■ホテルザフラッグのクラウドファンディングプロジェクト
https://www.hoteltheflag.jp/topics/2158



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