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連載 ホスピタリティへの処方せん徳江順一郎 東洋大学 国際地域学部国際観光学科 准教授

第3回「海外展開の希薄さと市場の変化」

2014年02月07日(金)
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ハイアットの冠がつくホテルは東京だけで3軒あるが、一方で御三家は寂しい状況である。ハイアットが対象としている市場に関しても、御三家、あるいは他の国内チェーンが運営受託しても良かったのではないだろうか。帝国ホテルは東京と大阪、そして特殊な事例として上高地があるのみだ。オークラにしてもニューオータニにしても、もともとの都心部の本店格以外は、ごく少数が直営で同格の施設として存在しているが、多くは廉価版のフランチャイズとなっている。

海外への展開に至ってはお寒い限りである。特に、本店と同格の施設はあまり展開されておらず、あったとしてもむしろ日本人渡航者が主要顧客というようなあり様である。

こうした状況に対しては、極東の島国から海外への展開は困難であるというイイワケがまかり通っていた。つまり、ホテル経営者たちからは、

「ホテルは欧米の文化が基軸となって発達したので、アジアのホテルは欧米には通じにくい」

あるいは

「多店舗化することによって、サービスレベルの低下が懸念される。特に運営受託で進出した場合には危険である」

といった言い訳をしばしば耳にした。

ところが、この言い訳もできない状況が生じる。2000年代に新御三家をさらに超える価格帯のホテルが数多く開業した。その中で存在感を放っているのは、香港に拠点を構えるホテルであったからである。

マンダリン・オリエンタル、ペニンシュラ、シャングリ・ラは、香港で「御三家格」とされているが、2000年代後半に相次いで東京に進出した。いずれも土地建物の所有こそしていないが、賃借方式で直接的に経営し、東京のトップホテルの一角を占めるに至った。そして、こうしたホテル群は日本に限らず世界中にホテルを展開し、結果として上記のイイワケがいずれも通じない状況となってしまったのである。

確かに、かつてのわが国ホテル業界を取り巻く環境では、海外展開をローリスク志向で行うことも一理あったかもしれない。世界有数の購買力を持つ日本人渡航者を主対象とすることは、日本企業にとっては強みの発揮にもつながり、リスクを取らずに果実を享受することが可能であったからである。

この点、同時代の百貨店にも似ていよう。百貨店の海外展開でも、せっかく海外の主要都市に進出していながら、おみやげ物をあさる日本人観光客が主要顧客であった。

だが、現在は日本の経済力が低下し、こうした戦術も通じなくなってしまった。もし「わが国のホスピタリティは世界最高のホスピタリティ」であるなどと喧伝するのであれば、歴史に ifは禁物だが、1990年代以前に、それを武器として欧米や成長著しいアジアの主要都市にチェーン展開していくことも可能だったのではないだろうか。そうであれば状況は変わっていたであろう。

しかし現実は、海外チェーンが御三家を凌駕する価格帯の施設を開業し、逆に日本のチェーンは海外進出に二の足を踏み、成長市場の取りこぼしをしてしまったことはまちがいない。

近年のラグジュアリー・チェーンは、IT技術の進歩を背景に、個別的な対応をしつつ、さらなる高価格帯でのチェーン展開を実現している。特に前述したアジア系のチェーンは、各国で最高級と目される施設を展開している。

現在の日本のホテルは、世界水準から眺めると「極東ローカル」なホテルとなってしまった。せっかくの「世界最高のホスピタリティ」がこれでは台無しなのではないだろうか。

要は、日本のホスピタリティとは、「必ずしも世界最高のものではないのかもしれない」という認識をまず持つことが重要なのである。


東洋大学 国際地域学部国際観光学科 准教授
徳江 順一郎 プロフィール
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【特集】本誌独自調査 総売上高から見た日本のベスト100ホテル
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