さまざまな料理人がいる中で、一人一人が持つ苦悩と挑戦の数々の物語がある。ホテル・レストランの総料理長が食の業界や若手の料理人に向けて伝えたいことは何か。これまでの長い経験の中で、どのようなことに悩み、どのようなことを考え、どのようにチームを創り上げてきたのか。インタビューを通じて後継者育成に向けた取り組み、マネージメント手法などを探るシリーズ「料理人の教育論」を隔週連載でお届けする。
ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ 執行役員 総料理長 岸 義明氏
こぼれていく人間に対して
職場長には大きな責任がある
—岸さんは料理人の世界で50 余年仕事をされてきましたが、時代の移り変わりを特に感じられることはありますか。
私たちが若かったころはヨーロッパで修行する料理人の数はそれほど多くはなく、その草分け的な存在が何人かいらっしゃるという時代でした。今は若い料理人たちがどんどん海外進出して、日本人の特性を生かしながら素晴らしい立ち位置で仕事をしています。日本人は勤勉ですから、ヨーロッパに行って本気で取り組んだら決して負けないですよね。一緒に働いている若手の中にも海外で勉強してきた人もいて、彼らを見ると「すごいな」と感心します。
私は自分には分からないことがあれば、若い人に聞いて教えてもらっています。時代の変化の中で分からないことが出てきたら、素直に若い人に聞いたらいいのだと思います。その代わり、私たちは彼らにはできないマネージメントの仕事を担えばいいでしょう。
私たちの時代の料理人が取り組んできたのは、いわゆる「洋食」です。今の時代の料理人たちは、本物のフランス文化なども取り入れて、そこから生まれたフランス料理というものを表現しています。それは本当に素晴らしいことだと思います。今の若い料理人たちを私はとても尊敬しています。職場長になったからといって威張っていればいいという時代は終わりました。総料理長は踏ん反り返っていなければいけないなどという考え方は、まったくおかしな話です。