歴史的保護建築に新しい命を吹き込む
❐ 保護活動の背景は。
建物は親会社が所有しており、改装費の総額はおよそ12 億アメリカドル(約1350 億円)。こうした巨額コストの背景には理由があります。まず、香港は非常に土地物価が高い。さらに、これが建物の保護活動の一環であるという点です。
この建物は、香港の人々にとって重要な意味を持ちます。香港の企業と人々によって守られ、生かされるものだからです。香港にはペニンシュラやマンダリン・オリエンタルといった伝統的ホテルがありますが、いずれも建物の保護活動なわけではありません。そうした意味で、ザ・マレーは非常にユニークかつ誇れるものです。
復元にはイギリスの世界的建築家ノーマン・フォスター卿率いるフォスター・アンド・パートナー設計事務所が当たりました。フォスター卿は香港上海銀行・香港本店ビルや香港国際空港といった現代建築の設計を手掛ける一方、歴史的な建築遺産の復元についても信頼を集める設計士として知られます。
❐ 具体的にはどのようなホテルに仕上がるのでしょうか。
香港のホテルとしては珍しく、商業・ビジネス地区が近いながら、直接隣接していない独立型の立地です。目の前に香港公園があってゆとりがある上、ホテル前にマレー・レーンというホテル名を冠した公式な通りがあります。自らの名を冠した通りを持つホテルは、香港では他にありません。敷地内には庭園と婚礼挙式ができる大聖堂も備えています。
オフィスを改装した362 室の75%が50㎡以上と香港としては非常に広く、スイートは225㎡あります。レストラン、スパ、ジム、それに香港では数少ない大型水泳プールを備えています。レストランは5 つあり、直営とアウトソースの両方を考えていますが、広東料理レストランには香港随一の店が入る予定で、テラスも付設します。最高層階のレストランでは220 度の角度から香港の眺望を楽しめます。文字通りフルサービスのホテルです。
もともとオフィスビルだったためエレベーターが8 つもあり、現代的デザインの中にもクラシック・ホテルによく見られるような椅子を設えているのもユニークです。
❐ テクノロジーはどの程度取り入れるのですか。
先進性と親しみやすさのほどよいバランスを取って導入します。例えば、宴会場「ニッコロ・ルーム」には壁と天井全体にLED を埋め込みます。これにより室内の色彩を変えられるなど、婚礼やイベントの演出に活用できます。一方、客室に使う技術はあくまでもお客さまにとって一般的で混乱しにくい、良く知られている使いやすいもの、例えば自動のカーテン開閉機能などが中心に採用されます。
❐ 今後の展望をお聞かせください。
ザ・マレーは今年、ニッコロ・ブランドの旗艦ホテルとして17 年10 月下旬に開業予定です。総支配人はイギリス人のダンカン・パルマ―氏が内定しています。パルマ―氏はランガムやマンダリン・オリエンタルなどで確かな実績を積んだベテランのホテルマンです。スタッフは400 人以上を想定し、ADR は4500 香港ドル程度を目標にしています。
来年以降も、長沙や蘇州などでニッコロの新規開業を予定しています。中国では特に成長が目覚ましい都市を選んでいます。もちろん、日本市場にも注目しており、良い条件があれば射程圏内です。まずは成長目覚ましいアジアを中心に足場を固め、実績を広げていきたいと考えています。
アントン・キライコ氏(Anton Kilayko)
マルコ・ポーロ・ホテルズ コミュニケーション・ディレクター
(Director of Communications, The Marco Polo Hotels)
PROFILE スイス ラロッシュ・インターナショナル・ホテルマネジメントBSc. リッツ・カールトン、オリエント・エクスプレス、デュシット・インターナショナルなどで、セールス&マーケティング分野における実績を積む。LUX マガジン社 出版ディレクター、KOP グループ マーケティング部長などの要職を務め、2016 年より現職。