ステップ1
現状の把握
〜自分が戦う土俵を知る
❒ まず、着任された当時の状況について教えてください。
先ほどもお話ししましたとおり、近くに出店した競合ホテルの影響で稼働率は激減し、施設的な付加価値もない状態でした。私自身も外資系のコンサルティング企業で製造小売業を担当していたので、ホテル事業のことはまったく分かりません。
そこで最初に行なったのは現状の把握ですね。今、自分が戦っている土俵がどのようなものであるのかをちゃんと理解をしないといけません。私は未経験の素人でしたから、情報を入れることからはじめました。業界紙、書籍、WEB などで知識を大量に仕入れ、その後セミナーでその知識を深掘りしていく。そうすると事業の構造というのが見えてきます。
ホテル事業の中に宿泊特化型というモデルがあって、勝つホテルとはどういうことなのか。やっと土俵が見えてくるわけです。状況は厳しいけれどもまったく光がないわけではないと感じましたね。
ステップ2
あるべき姿をつくる
〜成功ホテルから学ぶ
❒ 事業の構造を理解されたあと、次はどのようなことに取り組むのでしょうか?
現状把握で自分の土俵が宿泊特化型ホテルと分かりましたので、次は、自分たちが本来どうあるべきなのか、というあるべき姿のイメージがなくてはなりません。
そこで、宿泊特化型ホテルで成功をしているホテルを探し、これも徹底的に研究します。ステップ1と同様に紙媒体やWEB で情報を仕入れ、成功している宿泊特化型ホテルを知る。ネットで口コミの評価が高い宿泊特化型ホテルを知る。そして次は、実地で体験をしにいきます。
そこで見るのは、顧客からなぜ支持を得られているのかということ。顧客はお金を払い、満足をしているわけです。お金の重さに対して、満足度の方が重い。その源泉となっているのは何か、ということを徹底的に研究します。
それらを繰り返しているうちに、顧客から高い支持を得ているホテルに共通する要素がいくつか見えてきます。私が当時調べたときは、ロケーション、部屋の設備、朝食、接遇、料金体系、大浴場の6つの要素でした。
しかし、それだけでは不十分です。今度はこの6 つの要素をどのくらいバランスを整えていけば顧客満足に跳ね返るのかを知らないといけません。同時に、私のホテルは地方の中小企業の大赤字のホテルですから、やれることとやれないことがあります。
例えば私たちのホテルの場合、大浴場なんてつくれない、客室も開業して3 年もたっていないのに設備投資をする余裕もない、ロケーションは変えられない…と見ていくと、おのずと朝食だ、というのが見えてきたわけです。
あとは朝食をひたすら研究します。同じく、紙、WEB、そして実地での体験。ある日には金沢に出て、宿泊もせず、朝食だけを何軒もはしごします。そして、見て、食べて、ゲストの動きもじーっとみて研究をします。高評価を得る朝食のポイントがどこにあるのかを探すわけです。
それらを繰り返していくうちに、メニューのバラエティー、季節感、地元の食材、接遇の良さ、店内の空間、それぞれが噛み合うと顧客満足度が上がっていくというのが見えてきたのです。
❒ 次は、そこで得たものを朝食に取り入れる、という段階でしょうか。
そうですね。ただし、ただ真似をしても意味がありません。ホテルが違えば、ターゲットとなる顧客も違うからです。朝食の勝利の方程式は見えましたが、それを今度は自社に落とし込まないといけません。
そこで考えるのは、「自分たちの顧客は誰か?」ということです。平日には出張ビジネスマンが来る、週末にはレジャーのゲストが来る。最初から両方に訴求する朝食はつくれない。どちらを狙うのか。七尾は出張ビジネスマンの多いエリアでしたので、最終的には年齢30 〜55 歳の出張の多いビジネスマンにターゲットを絞ることにしました。
それではまた情報収集…のはずだったのですが、実は当時、男性に特化した、ましてや出張ビジネスマンに特化した朝食というのは事例がなかったのです。そこで、調査対象を異業種に広げました。インターネットで「ビジネスマン、出張、心配」、「会社員、朝の時間、PDF」などで調べると、大企業がさまざまなマーケットリサーチをしていて、意外にも情報が公開されているのです。そこで、出張サラリーマンの多くは前日接待で疲れているだとか、営業で嫌な思いをしているだとか、情報が入ってくるわけです。あるべき姿が少しずつ見えてきました。
ステップ3
ギャップを知る
〜目指すべき姿への道のりを測る
あるべき姿が見えたら今度は現状とのギャップを知らないといけません。理想とすべきところまで何段階段があって、何種類の通路があるのか。お金も時間も資源も限られています。費用対効果を考えながら進めていかなくてはなりません。
それまでの朝食というのは、ミルクロールとクロワッサン、コーヒーとオレンジジュースだけ。施設もIH のクッキングヒーターと電子レンジ、家庭用冷蔵庫くらいしかなく、スタッフもアルバイトが二人だけ。ですから、最初は和食を出そう、そのために炊飯器を買おう。おかずは冷食から始めよう…というところからスタートし、徐々に幅を広げ、質も工夫し、さらに日々メニューを変えられるように…と少しずつの積み重ねです。毎週朝食MTG をして、ひたすらやり続けるだけです。面倒だと文句だって出ますし、それをなだめながら継続していく、忍耐ですね。
日々の改善も、お客さまの声を聞きながら、一方で予算も限られていますから、1 つずつ見極めます。さまざまなメニューに挑戦をし、出し方を変えて、また声を聞いて、の繰り返しです。今では、毎日メニューが変わる朝食を実現できています。私たちみたいな小さなホテルで、そんなことができているホテルはあまりないと思いますよ。
トップインタビュー ホテルアリヴィオ 取締役 濱 哲史 氏
異業種からやってきた32歳の経営者が大赤字ホテルを短期で黒字転換、直予約率90%を実現 小さな独立系ホテルでも、適切なプロセスを踏めば必ず再生できる
【月刊HOTERES 2017年04月号】
2017年04月28日(金)