ホテル業界や建築設計・デザイン、建材メーカーなどから約150 人が一堂に会した
毎号ご好評をいただいている弊社刊行の『必ず成功するホテルリノベーション』。そのpart9 となる新刊の出版記念パーティーおよびシンポジウムを、昨年10 月13 日に東京都港区の青山ダイヤモンドホールにて開催した。シンポジウムでは、ホテルリノベーションの実践と周辺事情に精通した論客8 名をパネリストに迎え、有意義な提言や白熱した議論が交わされるなど、見応えのあるセッションとなった。

既成概念に縛られない
コンセプトが際立つホテル
2016 年9 月23 日に弊社より刊行した『必ず成功するホテルリノベーション part9』。10 月13 日には、同誌の発行記念シンポジウムを開催し、ホテル業界や建築設計・デザイン、建材メーカーなどから約150 人にご参加いただいた。
シンポジウムのスタートとして、主催者を代表して弊社代表取締役社長の太田進があいさつ。
「政府がインバウンドに力を入れているということもあり、東京五輪を一つのベンチマークとしながら2020 年の先を見据えた多数のプロジェクトが進行しています。既存のホテル企業だけでなく、レストランやブライダル企業をはじめ、さまざまな業界からのホテル業への参入も急増しています。こうした新規参入企業は、徹底的に既存ホテルを研究しているのでサービスレベルや秀逸なアイデアも多く、ホテル業での競争が進んで最終的にホテル業界全体のレベルが上がっていくのは良いことではないかと考えております。今後のホテル業界でさまざまなアイデアが実現していくことを期待しています」と述べた。
そしていよいよ第一部が開幕。会場設定も前回までのスクール形式から、中央にステージを設けたスタジアム風のレイアウトに変更して、ゲストとの一体感がさらに増したようだ。
今回、ステージに登壇したパネリストはUDS ㈱取締役中原典人氏、the range design ㈱代表取締役 寶田陵氏、㈱日建スペースデザイン 大阪オフィスシニアデザイナー 水原宏氏、㈱丹青社プリンシパルクリエイティブディレクター 万井純氏、三井デザインテック㈱デザインマネジメント部デザイン第1 チームチームマネジャー 堀内健人氏、ホテル格付研究所代表取締役所長 北村剛史氏、㈱マラッツィ・ジャパン代表取締役 玉岡雅代氏、㈱山下ピー・エム・コンサルタンツ常務執行役員事業創造部長 丸山優子氏の8 名。モデレーターは弊社専務取締役の村上実が務めた。まずは、寶田氏がこれまで世界中で300 軒以上ものホテルを訪れた中から、琴線に触れた5 軒を紹介。竣工写真のような画像ではなく人が集うさまざまなシーンを紹介したことで臨場感のあるプレゼンテーションとなった。ピックアップした1軒目は米国・ニューヨークの「エースホテル・ニューヨーク」。客室はラフ&カジュアルなテイストだが特筆すべきはロビーのにぎわいで、しゃれたフロントまわりに宿泊者のほかローカルのゲストがソファーに座りきれないほど集い、コミュニケーティブな雰囲気が魅力となっている。また、既存建物をコンバージョンした「エースホテル・ロサンゼルス」も夜になるとDJ が登場し、音楽を流して踊りはじめる人もいるという。




次にモーテルをリノベーションした米国のパームスプリングの「エースホテル&スイムクラブ」を紹介。車庫はアウトドアリリビングのようなテラスに改装。さらに敷地内の施設では週末になるとパフォーマンスも行なわれる。また、ロンドンの「ホブストンホテル」もフロントに到着するまでカフェ・バースペースがあり、夜になるとイベントも開催されて人でごったがえすという。
最後に紹介したニューヨークの最新ホテル「ワンホテル」は、カジュアルレストランとホテルがつながった設計で、ホテルに入った瞬間に音や匂いなどレストランの臨場感が伝わってくるそうだ。客室内装はカジュアル&オーガニック、柔らかい雰囲気の素材感を用いたニューヨークの最新トレンドで、料金は25㎡で7 万円とかなり高額ながら人気を博している。
これらプレゼンテーションを受けて、座談会ではパネリストから忌憚のない意見や提言が活発に述べられた。中原氏は「海外はさまざまなことを試しやすい環境がありますが、日本では音や環境の問題をクリアしないと成立しないのも事実。しかしながらわれわれも現在、日本のホテル業界が驚くような新業態を模索し、実際に海外で試しています。3 〜5 年後ぐらいには日本でも発表できると思っています」と自信をのぞかせた。
万井氏は「エースホテルは街の風景をそのままホテルの中に引き込んでおり、商業空間デザインを主体に行なってきた視点から見るとそれは当然の方向性です。レストランやカフェはデザインももちろん大事ですが、そこで楽しんでいるゲストたちが空間の雰囲気をつくり出すのです。ホテルは遊び場であってもっと楽しくないとならない。そのあたりをこれから提案していきたい」と力説。
玉岡氏は「私も以前ニューヨークでパラマントホテルを見たときに驚いたことを思い出しました。私たちもタイルというマテリアルを通して人を感動させるホテルづくりに関わりたいですね」とコメントした。
丸山氏は「私もエースホテルに行ってショックを受けました。現在はゲストの趣向が多様化しているので、ホテルのポジショニングをデザイナーとマネジメント会社と事業主とが本気で考え、デザイン戦略まで練っていかないとこれからは成功しないと思います」。
さらに北村氏は、「鑑定士から見るとワンホテルの7 万円という室料はショッキングでした。米国では“ エッジの効いたデザイン性” が評価基準にあるのでできるのでしょうね。ただ賞味期限が気になるところです」と話した。



