㈱玉寿司 代表取締役社長 中野里 陽平 氏
2011 年3 月11 日に発生した「東日本大震災」は、その後の「福島原発第4 号機の爆発」という未曽有の危機を引き起こした。テレビで不気味な爆発映像が流れた2 日後、私は緊急店長会議を開いた。一人の店長が緊張した面持ちで「社長、これから我々はどうなるのでしょうか?」と質問してきた。正直、この先どうなるかなど分からなかった。
しかし、“ のれん” の訓えにあった「大事なときは、損得よりも正しさを選択しなさい」という言葉が脳裏をよぎった。私は「今回の事態は、皆さんの責任ではありません。だから、会社の体力が続く限り雇用を守ります。少し我慢の時期が続くけれども、みんなで乗り越えよう!」と言い切った。少し安堵した表情の店長たちを見ながら、私はこう付け加えた。
「逆に、どんなに経営が順風満帆なときであっても、経営理念に向き合わず、お客さまや仲間に対して不誠実な姿勢を持つ人間がいたならば、その人間には去ってもらいます」。
この緊急会議の後、私は財務部長と自社の財務状況を分析しながら、「自社の体力の限界点」を調べた。恥ずかしながら、そんなに余裕のある状況ではなかったが、「正しきを選択して倒れるのであれば、それを受け入れよう」と覚悟を決めた。不安を心の底に置きながら、各店舗を訪問してみると、みんなイキイキと頑張ってくれていた。その姿を見たとき、「のれんの訓え」に感謝した。
日常を見れば、社員をしかるときや苦言を呈することもたくさんある。そのことでストレスを感じることも…。しかし、「いざ!」というときに、経営者の「人」に対する考えが試されると思っている。
㈱玉寿司
http://www.tamasushi.co.jp/