離れ貴賓室「狩鞍庵」の寝室。
つぶれかけた旅館を継承した四代目経営者が、たった数年で高収益旅館によみがえらせた。この陣屋の成功ストーリーは、我が国の宿泊産業の歴史において、注目すべき一つの大きな出来事である。なぜ注目に値するのか。その理由は三つある。
一つは、世界に誇る日本の製造業の仕組みや生産性向上の工夫を旅館業に取り入れたこと。本田技研でエンジニアをしていた宮崎富夫社長は、就任してから四つの改革を進めた。①「情報の見える化」。スタッフ一人一人の頭の中にあった情報を社員全員で共有した。②PDCA のサイクルを早く回すようにした。管理体制を月次管理から日次管理に切り替え、判断と次のアクションがすぐにできる体制を整えた。③共有した情報を使っていくという体制の整備。お客さまの利用履歴を次のおもてなしや営業活動に活用したという。また、CRM の仕組みを作り、旅館からも情報を発信していった。④アナログでやってきたことをデジタル化して効率化を図った。情報を書き写したり、走り回ったりする時間を削減し、お客さまと接する時間に変えていくようにした。製造業で行なわれていることを旅館業にも導入したのだ。
理由の二つ目は、自社でPMS(旅館運営システム)を作ってしまったこと。上記の四つの変革をしようにもただ「頑張ってやっていきましょう」とスタッフを鼓舞しても実現するものではない。それらを支える基幹システムが必要だろうと考え、自社で開発してしまった。それが「陣屋コネクト」である。自社で開発し、自社で使いながら、毎日少しずつ改善を繰り返し、現在では広くほかの旅館やホテルでも活用していただけるよう外販もしている。
理由三つ目。それは、二日間連続した休館日を設けたこと。火曜日と水曜日を休館日にするという英断を下し、それを実践しているのだ。それによって、社員は連休が取れるようになった。有給をつければ3 連休にでき、家族旅行や、ほかの旅館の視察旅行ができるのだ。それが社員のモチベーションにもつながり、当初33%だった離職率は、現在では4%に減っているという。
このほか、顧客の声を吸い上げる工夫、日帰りのお客さまのリピート施策やブライダルなどにつなげる工夫などなど、理系社長の柔軟でロジカルな頭脳で高収益の魅力ある旅館づくりに成功しているのだ。
旬の食材を板前自らが出向いてゲストの前で調理する。