昨年7月27日、東急とL Catterton Real Estate、東急百貨店は「渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト」の一環として渋谷東急百貨店本店跡地に「ザ・ハウス・コレクティブ」の新ハウスを2027年度に開業すると公表した。2008年に北京に開業した「The Opposite House」から始まり、香港の「The Upper House」など世界的にも高い評価を受ける同社がどのような魅力ある「ハウス」を作るかが注目を浴びている。本稿ではザ・ハウス・コレクティブの幹部メンバーに同社の独自の企業文化や特徴について聞いた。
世界で注目を集める施設を展開
不動産としての総合的な視点が強み
2022年7月、東急とL Catterton Real Estate、東急百貨店は「渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト」として渋谷東急百貨店本店跡地にリテールやホテル、レジデンスなどを含む新たな複合開発の構想を公表した。
そして、そのホテルパートナーとして選んだのが「ザ・ハウス・コレクティブ」だ。ザ・ハウス・コレクティブは香港のスワイヤー・ホテルズが展開し、2008年に中国・北京に「The Opposite House」を開業したのを皮切りに、香港の「The Upper House」、成都の「The Temple House」、上海の「The Middle House」を展開、個性的なデザインと独自のサービススタイルで注目を集めてきた。
第一号となる中国・北京の「The Opposite House」
中国・成都の「The Middle House」
これまで4つの魅力的な施設を作り上げてきた同社の特徴はどこにあるのか。
スワイヤー・ホテルズのマネージング・ディレクターであるWinter Dean氏はこう話す。
「スワイヤー・ホテルズはスワイヤーグループの傘下であるスワイヤー・プロパティーズの傘下であり、『ザ・ハウス・コレクティブ』と『イースト』二つのブランドを展開しています。
その中でも『ザ・ハウス・コレクティブ』はホテルだけではなくそのビル全体の『場作り』を考えてきました。そこにはハウス(ホテル)だけではなく商業施設やオフィス、住宅などさまざまな施設が同居します。さまざまな魅力ある施設がある中で、施設として総合的にほかの施設とどう差別化するかということを常に考えてきました。
ですから、ハウスも単体ではなく、リテールチームや不動産チームと緊密に連携をし、例えばホテルに隣接するショッピングモールとコラボレーションをするなど、ユニークな取り組みを行なっています。ハウス単体ではなく、商業施設などと一緒になり総合的な観点で不動産開発をしているのが私たちのグループの強みです」。
一つひとつがオリジナルであること
ザ・ハウス・コレクティブの展開する施設はそれぞれがその地のストーリーを汲み、個性ある施設を作っている。それが小さなホテル企業の強みであると同社のリージョナル総支配人のPassmore Mark氏は話す。
「私たちが運営する施設は『The Opposite House』、『The Upper House』、『The Temple House』、『The Middle House』の通り、すべてに意味とストーリーがあります。一番わかり易いのは『The Temple House』でしょうね。成都の大慈寺のすぐ隣にあり、そこから名付けました。また、『The Middle House』は上海の大中里と呼ばれる歴史的なエリアにあるのですが、その大“中”里の“中”から名付けています。
そうした一つひとつの場所、そこにあるストーリーを大切にし、ハウスの名称は決まっていきます。日本でのプロジェクトの名称は決まっていませんが、そうした皆さまに興味を持っていただけるものとなるでしょう」。
上海の「The Middle House」のエントランス
香港の「The Upper House」
これまではスワイヤー・プロパティーズのグループによる所有・運営を行なっていた同社だが、東京ではMC(マネジメント・コントラクト)としての初の案件となる。今後は所有だけでなくMCなどによる展開にも力を入れていくとスワイヤー・ホテルズの開発責任者であるAriizumi Maria氏は話す。
「これまでの私たちのホテル開発はスワイヤー・プロパティーズの複合施設の一部として展開をしてきました。しかし、ここ数年はマネジメント契約も視野に、さらなる展開を構想しています。その第一号となるのが今回の渋谷のプロジェクトです」。
ザ・ハウス・コレクティブのサービス・カルチャー
なぜ、まだ4軒しかないザ・ハウス・コレクティブが、なぜこれほどまでに世界で注目されるのか。もちろん高いデザイン性はあるが、何よりもゲストエクスペリエンスを重視してきたことがその評判につながってきたと、マネージング・ディレクターであるWinter Dean氏の話から分かる。
「私たちが大切にしているゲストエクスペリエンスについてお話します。これは私たちにとって本当に本質的なことです。私たちはこれまでの運営で独自のサービス文化を確立してきました。
そのサービス文化とは、非常に高度なオーダーメイドのサービスです。私たちは、お客さま一人ひとりにとって、とてもユニークな体験を提供しています。なぜこの街に来たのか、誰と来たのか、滞在期間はどのくらいか、この街に来たことがないのか、などなど、それによってお客さま一人ひとりへのサービスは異なります。私たちは、お客さまがハウスに到着される前に、すべてのお客さまと連絡を取り合い、お客さまの好みなどお客さまのことをよく知り、私たちと一緒にいる間、自宅のようなくつろぎの時間を過ごすことができるよう、配慮しています。そのため、ご到着後すぐに、すべてのお客さまにインルーム・チェックインをしていただくことができます。
また、何度もご宿泊いただいているリピーターの方でフロントで鍵をくれればいいよという方には柔軟にそのように対応します」。
リージョナル総支配人のPassmore Mark氏が続く。
「私たちは『台本にない体験』を目指しています。お客さま一人ひとりに同じようなアプローチをしない、ということです。私たちは、お客さまが望むサービスを提供することを尊重します。そして、マネジメントが非常に大切にしているのは、目に見える形で私たちのチームと一緒にいることです。私はオフィスに座っているわけではありません。私たちは、チームと一緒にお客さまと一緒に時間を過ごします。ですから、私たちのチームは、お客さまを外にお連れすることだってあります。例えば、香港でお子様連れのお客さまが特別な体験をしたいとリクエストがあったとします。そうした場合には、ゲスト・エクスペリエンス担当のディレクターが香港でお気に入りのお子様が楽しんでいただける場所にお客さまをお連れすることもします。こうした本当にカスタマイズされたパーソナルなサービスの提供は、ほかのホテルではなかなか難しいことでしょう」。
独自のサービスを生み出せる仕組みとは。
結果それに共感する人材も集まる
顧客から高い評価を得るサービスをグループとしてどう再現性を高めるか、これはどのチェーンにとっても課題だ。しかし、ザ・ハウス・コレクティブは小規模だからこその独自の手法でそれを実現している。マネージング・ディレクターであるWinter Dean氏はこう話す。
「まず、私たち幹部含めて多くのスタッフはスワイヤー・ホテルズに長く所属しています。リージョナル総支配人のマークは創業から15年、私は11年ですが、インターンで入社してからともに成長をしてきたスタッフが今ではグループ内でマネジメントとして活躍しています。
これは非常に重要なことです。なぜなら、彼らが私たちのブランドアイデンティティ、コンセプトを理解しているので、それを組織全体に浸透させることができるからです。ですから、人材の異動も可能な限り行ない、私たちのブランドカルチャーをグループ内で幅広く浸透できるような取り組みを行っています」。
デザイン性だけでなく独自の企業文化から生まれるサービスが顧客を魅了する(同社WEBより)
リージョナル総支配人のPassmore Mark氏が続ける。
「また、スワイヤー・ホテルズではオペレーションの自由度が高いのが特徴です。先ほどゲスト・エクスペリエンス担当のディレクターが直接お客さまをお望みの場所へお連れする例をお話しましたが、過度なオペレーションルール、多すぎるSOPがないことでスタッフの個性や発想が生きる仕組みとなっています。もちろん、ブランドとしてのガイドラインはありますが、個々のスタッフの自発性、創造性、ユニークネスを大切にしたものです。
採用のときに大きく分かれます。『あなたらしく、自発性や創造性を生かして働いて欲しい』と伝えると、ある人は『分かりづらいな』と考え、ある人は『これは素晴らしい』と考えるでしょう。私たちのカルチャーに合う人材が入社してきてくれているからこそ、ザ・ハウス・コレクティブのサービス文化が強固になっていくのです」。
「私たちはチームメンバーに大きなレベルのオーナーシップを持たせます。仮にエントリーレベルのスタッフがチェックインでお客さまの情報を得て、何かちょっとしたプレゼントやウェルカムレターを送りたいと考えたとします。私たちのハウスではそれを上司に承認を得る必要はありません。自由にできる環境を大切にしています。通常はどこかでの線引きを作りたがるものですが、そのある意味グレーゾーンを大切にしているのです」(マネージング・ディレクター Winter Dean氏)。
スタッフの自由度の高さがユニークなホテルを実現する
自発性や個性に任せることで差別化を実現することは非常に興味深いが、一方で高額を支払うゲストを迎えるスタッフを育てるためには教育も必要だ。それをどのように実現しているのか。
「もちろんザ・ハウス・コレクティブトレーニングの仕組みはありますが、何より社内の多くのロールモデルとなるスタッフがいるのが強みです。いらっしゃるお客さまはさまざまです。The Upper Houseはその名の通り高層階に部屋があります。そこにゲストをお連れする際、エレベーターの中でどんな会話をするのか。天気の話をしていては記憶に残りません。例えばお客さまがきれいなスカーフやジュエリーを身に着けていればその話をするとか、さまざまな話を通して共通の興味を見つけるとか。もちろん、積極的な会話を好まない方もいるでしょうから、そのときはそれに合わせるとか。もちろん礼儀正しく素敵な笑顔も大切ですが、自身で様々なケースを学びながら、そしてロールモデルとなるスタッフから学びながら、成長していける環境があるのです」(マネージング・ディレクター Winter Dean氏)。
「それが有機的に機能しているのがザ・ハウス・コレクティブだと思います。連泊で滞在されているお客さまがいて、今日は体調が少し良くなさそうだと感じれば、お客さまがお部屋に戻った時に温かい紅茶がおいてあるような、そうしたサービスを実現できるのです」(リージョナル総支配人 Passmore Mark氏)。
オープンな社風がサービス文化を育て上げる
同社の職場環境について、非常にオープンで風通し良い環境があると同社のAssistant Director Marketing -CRM & PRのChua Jaime氏は言う。
「私は本社のマーケティングという立場にいますが、その立場から見ても社内もハウスの現場もオープンな会話が多いように感じています。例えば、私が何かイベントを考えた場合もいつでも気楽に相談に行けますし、逆にそのイベントの告知のためにどのようなコピーを考えているかなどを彼らに常に共有しています。本当にオープンで気軽にコミュニケーションができる。私たちのチームにはそれがあります」。
マネージング・ディレクター Winter Dean氏が続ける。
「私たちは皆一緒に育ってきたようなものなのです。言ってみれば家族的な雰囲気とでも言うのでしょうか。上下関係もありません。私が入社した当初、当時のマネージングディレクターがインターンシップで来た学生をファーストネームで呼びました。そのような小さな積み重ねが、グループ全体の文化の醸成につながっています。
私たちは創業以来、独自のさまざまな工夫や取り組みで企業文化を創り上げてきました。それを今回新しい形で、日本の渋谷という世界的にも有名な場所で、新しい“ハウス”を開業できることをとても嬉しく思っています。『ホテル』ではなく『ハウス』。私たちにしかないこれまでにない滞在経験を日本の皆さま、日本を訪れる皆さまにお届けできるのをたのしみにしています」。
ザ・ハウス・コレクティブ
https://www.thehousecollective.com/