三井不動産がかつて三井総領家(北家)の居宅があったという縁ある土地に、自らの「三井」ブランドを掲げ、日本最高峰のホテルブランドを目指すという「HOTEL THE MITSUI KYOTO」プロジェクト。その開業日である11月3日が、目前に迫ってきた。同ホテルの話題は国内だけでなくすでに海外までにもおよんでおり、多くの期待の声が寄せられる中、ハード、ソフト、人、すべてにこだわりつくされたホテルが、いよいよ開業に向け、カウントダウンに入った。 文 本誌・岩本 大輝
申し分のないハード、そして、
申し分のないメンバーがそろった。
本来であればオリンピックイヤーである2020年だけあって、今年は日本国内で数多くの注目度の高いホテルがオープンすることになっている。その多くは外資系ブランドのホテルだが、その中とりわけ高い注目を浴びているのが、三井不動産がかつて三井総領家(北家)の居宅があったという縁ある土地に、自らの「三井」ブランドを掲げて開業するラグジュアリーホテル「HOTEL THE MITSUI KYOTO」であろう。
これまでラグジュアリー領域では2005年に開業したマンダリン オリエンタル 東京や2007年のザ・リッツ・カールトン 東京、さらに今年9月に開業したフォーシーズンズホテル東京大手町など、インターナショナルホテルチェーンをパートナーに数々の素晴らしいホテルを作り上げてきた三井不動産。その三井不動産が、自らの名を以て日本最高峰のホテルブランドを目指すというのだ。
当然、ハード面へのこだわりは細部にまでおよんでいる。かつての三井総領家にあった多くの遺構を継承することで、ホテルの建つ土地の持つ「時の記憶」を踏襲し、現代に蘇らせようという想いが随所に見られる。代表的なものとしては、300年を超える歴史を持つ「梶井宮門」であろう。同門をエントランスとして当時の姿で再生させるために、門を解体し、福井の宮大工集団である藤田社寺建設まで運び、当時の技術と現代の技術の双方を持って再生させたのだ。
300年の歴史を超えて再生された梶井宮門
また、そのこだわりは遺構だけではない。ホテルの外壁からはじまり、客室、廊下など細部にまで「この二条城至近の地に建つ日本最高峰のホテルブランドとしてどうあるべきか」という議論が積み重ねられてきた。そして、161室の客室は一つひとつ、1ミリ、3ミリといった修正を重ねながら、完成をさせていった。
ハード面は建築だけにとどまらない。「庭屋一如(ていおくいちにょ)」という、庭と建物が一体となり美しく調和しているさまを表す言葉の精神を重んじ、三井家の時代から受け継がれてきた庭をランドスケープデザイナーの宮城俊作氏とともに再生をした。草花の香り、風や水の音、虫の鳴く声や鳥のさえずりなど、季節とともに移ろう日本の自然の素晴らしさを五感で感じることができる場がホテルとして誕生する。間違いなく、申し分のないハードを備えたホテルとなった。
庭屋一如の精神を表現した 三井家の記憶を継承し現代に新生した庭を眺めることができるラウンジ
同時に、三井不動産から同プロジェクトを任された総支配人 楠井 学氏がこだわったのは、“人” だった。「“人のホテル”を目指す」と、楠井氏は言う。「人の三井」と呼ばれた三井不動産が長く育んできたDNAを、ホテルとしても継承していこうというものだ。三井不動産のホテルらしく、「風通しの良さ」、「謙虚さ」には徹底したという。「本当に素晴らしいメンバーが集まってくれました」と楠井氏が言うように、日本だけでなく海外からも幅広い経験を持つスタッフが集まった。
しかし、楠井氏はそこで満足せず、徹底してこだわった点がある。それは、“自分たちの経験の延長線上のホテル”を作ろうとしなかったことだ。京都という土地で、日本の三井不動産という企業のホテルとして、日本最高峰のホテルブランドを目指すのであればどうあるべきか? ということを皆で考えた。「ゼロから創り上げるこのホテルでは『ブランドスタンダード』という縛りがありません。だからこそ、多種多様なアイデアが無限に出てくるのです」と楠井氏は言う。そうしたディスカッションを経て、「HOTEL THE MITSUI KYOTO」らしさを表現しようという、申し分のないチームができあがった。
「素晴らしいメンバーが集まってくれました」と楠井氏が胸を張るホテルチーム
ハード、人の融合で、唯一無二の
ホテルの世界観を表現できるか。
ホテルのブランドコンセプトとして掲げたのは「日本の美しさと -EMBRACING JAPAN’S BEAUTY-」という言葉だ。日本には四季があり、人々は古来よりその四季とともに移ろう自然に無上の美を感じ、その感動を人と分かち合う中で独自の美意識を育んできた。その歴史を積み重ねる中で生まれてきた文化、建築、工藝、そして食などに見られる日本独自の美しさを大切にしながら、細やかな心遣いと洗練された振る舞いによってゲストに特別な体験とくつろぎを提供することを目指す。
素晴らしいハードが完成し、素晴らしいメンバーもそろった。
一方で、ホテルのコンセプトを伝えるために必要なのは、それらを融合させ、ハード、人、の両面を通じてホテルの世界観やコンセプトを表現できるか、ということであろう。そのために、「HOTEL THE MITSUI KYOTO」のメンバーは楠井氏自らも含め、京都を学び、日本の文化を学び続けている。そして、容易ではないと言われる京都の街、人々に溶け込むための努力を継続している。当然、単なる表面だけのブランド、コンセプトで終わるホテルではない。その覚悟が、その言葉、行動の一つひとつから伝わってくる。
「開業したばかりのホテルは生まれたての赤ん坊と同じ」という言葉がある。確かに、生まれたばかりのホテルは歩みもおぼつかなく、時にふらつき、時に転んでしまうこともあるかもしれない。しかし、この素晴らしいホテル、そしてメンバーを見るに、そうした経験を経ながらも、きっと日本最高峰のホテルを創り上げてくれるであろうと強く感じる。誰も見たことのない、唯一無二の日本のホテルが、開業に向けていよいよカウントダウンを開始した。
HOTEL THE MITSUI KYOTO 公式HP
https://www.hotelthemitsui.com/ja/kyoto/