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ホスピタリティへの処方せん

第 5回「変化対応としてのマーケティング」

2014年02月21日(金)
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旅館は件数が減少しつつあるという事実だけを述べたが、このことは必ずしも悪いことばかりではない。市場全体が成長している状況は、一見素晴らしいことに感じられるが、こうした環境においては一般に、当該製品やサービスの競争は穏やかな状態であるためにイノベーションが起こりにくくなり、結果としてその市場における製品やサービスのクオリティーはなかなか良くなりにくい。結果として海外企業との競争に太刀打ちできない製品やサービスになってしまうことも多いのである。競争が激しくなっていくことによってイノベーションがうながされるようになるという面があることも忘れてはならない。

実際、なぜ香港に拠点をおくホテル群が世界のラグジュアリー市場を席巻しつつあるかと言えば、香港が中国に返還されるという大きな節目を迎えるにあたり、このままではまずいという大変な危機意識を共有することができるようになったことも一因である。

現在の旅館や温泉街がおかれている状況は、まさにこうした市場環境の急変を迎え、それを乗り越えつつある状況だと言えよう。すなわち右肩上がりに需要が増加していた時代から、その需要を構成する最有力な存在(=団体旅行)が急減し、個人客の開拓を進める方向に目を向けるようになった。私だけが感じているのかもしれないが、多くの旅館は私が子供のころに家族旅行で泊まった旅館よりも確かにサービスレベルがアップし、細やかな対応ができるようになっていると思われる。

また、それまでは旅行もしなかったような個人客に対して、旅行に行きやすい環境づくりをするなどした旅館企業も存在する。このような方向性での対応について、マーケティングでは「市場の創造」や「需要創造」といった表現をすることがあるが、ここでもきちんとしたマーケティングができている企業とそうでない企業とに二分されてしまったようである。

東急ホテルズが、かつての「東急ホテル」と「東急イン」という 2ブランド体制から、「エクセルホテル東急」、「ビズフォート」といった新しいブランドを開発し、積極的に展開しはじめているのも、こうした「市場対応」としてのマーケティングである。二つのブランドだけしか持っていないという状況はすなわち、市場:つまりお客さまを 2種類にだけ分類し、二つの視点でしか見ていないということである。四つのブランドを持っているということはすなわち、それだけ細やかにお客さまを分類し、より細やかな対応をしているということである。

極端な例を一つ挙げよう。それはプリンスホテルのブランディングである。かつてのプリンスはほとんど、「○○プリンスホテル」という地名のみを変えた同一ブランドで展開していた。その中には高級シティ・ホテル的な施設からビジネスホテル的な施設、はてはリゾートに至るまで、きわめて多様な施設群が含まれていた。また、リゾートでさえも湖畔のリゾートやスキー・リゾート、あるいはファミリー向けと、多彩な立地での施設展開がなされていたが、すべてが同じブランドでの展開となっていた。

かつて関係していた人には申し訳ないが、こうしたホテルのマーケティングに対する姿勢も、現在の状況を招いた大きな原因となっているだろう。

それでは、「クレストホテル」という別ブランドでの展開をした「帝国ホテル」は良かったのだろうか。そんなことはない。「帝国」というブランドからあまりに遠すぎても相乗効果は期待できない。この辺「グランド」、「リージェンシー」などをうまく組み合わせて展開した「ハイアット」をはじめとする海外のホテル企業なのである。


東洋大学 国際地域学部国際観光学科 准教授
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