長引くコロナ禍で大ダメージを受ける宿泊業界。そうした状況下でも未来を見据え、新たな仕組みを導入してアフターコロナに向けた さまざまな施策を練るホテルも増えている。そのカギとなるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。今回は昨今、注目度が急上昇しているホテルDXの一つ、“空き情報”に着目した㈱バカンが手掛ける行列待ちシステムについて営業本部の里見吉優部長に伺った。
AIやIoTを活用して混雑を
緩和するナッジサービス提供
▼初めに貴社の自己紹介をお願いします。
当社は、いわゆるスタートアップ企業で2016年に創立しました。空き状況の可視化や混雑の抑制といった空き情報を起点にしたサービスを提供しており、社名の「バカン」は英語の“空き”を意味する「Vacant」に由来しています。本社は東京都千代田区にあり、他に国内では大阪、海外には中国上海にも支店があります。DeNA元会長の春田氏が社外取締役を務め、技術顧問として東京大学の川原先生、中山先生、米国のUCLAの西先生などにも参画いただいています。その理由は大学発の最新技術や知識を、当社を通じて実装していただくことで社会貢献していくという意味合いがあるからです。社員数は約70人でそのうち3分2がエンジニアや品質保証などのサービスに直接関わっていますので、営業力で売っている会社というよりはサービスそのもののよさを認めていただいていると思っています。また、当社はスタートアップ企業専門の投資家のみならず、清水建設やNTT東日本、JR東日本などの企業からの投資を受けていることも特徴です。当社のしっかりとした技術や実現・実行力を高く評価いただき、経済産業省やJETROからも承認を受けており、商業施設、百貨店、大手ゼネコン、デベロッパーとも取り引きがあります。
▼主力商品について教えてください。
複合商業施設などの飲食店の混雑情報の提供や順番待ちサービス、トイレの混雑抑制サービスをメインにしており、いまでは空港、スタジアム、病院などにも導入されています。このほか200以上の自治体で選挙の投票会場や避難所の混雑情報なども提供しています。AIやIoTを使って瞬時に空き情報が分かるので、それによりストレスなく施設を利用でき、時間をより有効に使えるようになります。このように当社の技術は、自然に優しく背中を押すように人に行動を促す「ナッジ(そっと後押しするという意味)サービス」だと考えています。このようにテクノロジーを使って心地よい空間やまちづくりをサポートすることを目指しています。
㈱バカン 営業本部 部長 里見吉優氏
ホテルの省人化や
サービスの平準化、CSにも寄与
▼ホテル向けのサービスもありますか。
主に混雑対策と混雑データ活用の二つのサービスをご提供しています。実は2021年に当社のサービスを最も多くご利用いただいたのがホテル業界で、100施設以上にご導入いただきました。以前は観光の拠点としてのホテル利用が多かったと思いますが、コロナ禍では観光地に行くことよりもホテルに滞在することが旅行の目的になってきていると感じています。そのとき大事になってくるのがチェックインに始まり、大浴場、レストランなどホテルの中での体験価値だと思います。ホテルのサービスはお客さまの期待値が高いだけに、実際に行ってみてダメだとホテルのイメージダウンにつながります。アフターコロナでは、いままで押さえられてきた旅行に行きたいという気持ちがマグマのように一気に吹き出すと思われますので、その際にわれわれのサービスを活用していただいてよりよい宿泊体験を提供してもらえればと考えています。
▼まず、混雑対策について具体的なサービス内容を教えてください。
混雑対策はわれわれが得意としているサービスで、フロントやレストラン、大浴場、プール、ジムなどの混雑状況をお客さまにお伝えしたり、オンライン上で順番待ちをできるようにするものです。最短で1.5カ月で運用開始が可能です。例えばホテルのフロントに導入すれば、宿泊者がチェックインする場合、あらかじめホテルのHPに貼った当社の混雑情報のURLからフロントの混雑状況を確認でき、混んでいる場合はウェブ上で順番待ちに並ぶことができます。同様にチェックアウトの場合も、部屋からフロントの混雑状況を確認いただけます。ホテルとしてはお客さまが混雑具合をみて利用時間を判断、調整してくれるので自然に混雑をさばけるのがメリットです。フロントだけでなく、朝食会場や大浴場といった館内の他にも混みやすい場所に導入することで、客室からそれらの場所の混み具合を一括で確認できるような環境を作ることも可能です。それらの混雑情報が見られるページにアクセスできるQRコードを発行すれば、お客様は手軽に手元のスマートフォンなどから見ることもできます。また混雑が起きやすいレストランなどではお部屋からスマートフォンを通して順番待ちをしていただき、順番が来たら通知を受け取りレストランに来てもらうといった使い方も可能です。順番待ちは店頭のタブレットで受付し、QRコード付きの呼び出し券を発行することもできます。呼び出しの通知がくるまで部屋でゆっくりしていただくだけでなく、売店など館内を自由に散策してもらうといったことも可能です。
さらに館内にサイネージを設置すれば、スマートフォンを使わなくても混雑情報を見ることができるので老若男女を問わず混雑を把握した行動を促すことができます。
▼もう一つのデータ活用はどのようなサービスなのでしょうか。
混雑データ活用は、混雑情報を活用したほかのホテルの成功事例やノウハウを共有させていただき、よりよい運営をサポートするサービスです。もちろん個別の事象や名称はお出ししません。例えば混雑する時間にこのような施策を打って改善しましたという内容です。経験的にイメージしていた混雑しやすい時間と、実際に取ったデータから分かった時間と違った、新しい発見があったという話はよく聞きます。こういったデータを通して新しい発見をできることで、宿泊体験をより向上させる施策を打てるようになります。今後Go To トラベルや地方クーポンなどの旅行推進策が再開されるとチェックインに通常より時間がかかりフロントカウンターが渋滞することが予想されますが、そうした混雑対応にも力を発揮できると思います。
▼導入に際してのコスト感は?
フロントサービスは期投資額70万円/ランニングコスト月額2万円、レストランの待ち列サービスは初期投資額70万円/ランニングコスト月額2万円、大浴場の混雑サービスは初期投資額90万円/ランニングコスト月額2万5000円となっています。ホテル業界ではコロナ禍で離職者が増えたと聞いています。いま人を雇おうとすると採用に50万円、採用後は福利厚生などを含めて月40万円かかると言われています。それを当社の朝食の待ち列サービスに置き換えると初期費用は一人採用するより20万多くかかりますが、月額のランニングコストは月2万円ととてもお安くなっていますので人件費に対して38万円の投資効果が出てくることになります。これを2年間積算すると約900万円のコストメリットになります。また、ホテルの方からは金額もさることながらどのサービスも操作が簡単なため、外国籍のスタッフでもサービスを回していけるため、オペレーションの平準化をしやすいといったお話も聞きました。このように当社のサービスはホテルの業界の課題である省力化や省人化に寄与できると自負しており、ホテルは人員配置のコスト削減に加えて宿泊体験の向上施策、それによるリピート率の向上、マーケティング効果による売り上げ向上などがメリットとして挙げられると考えています。
▼今後の展望について教えてください。
当社のサービスは小さく始めて、お客さまに実際に使っていただきながら改善を重ねて機能をアップデートしてきました。ですから現状のサービスで完成とは思っておりません。ホテルの方々からよりご意見をちょうだいし、それを当社のエンジニアがより使い勝手のよいサービスに改良していきたいと考えています。
また、当社のサービスを活用すればホテル館内のレストランだけでなく、周辺の飲食店と提携して混雑状況を表示することも可能です。例えばホテルの1階にサイネージをおいて館内と周辺の飲食店情報、観光情報さまざまな情報を提供する、こうした一連の体験を通してホテルを核にした観光DXの推進し、地域活性化にも貢献できればと考えています。
【問い合わせ先】
株式会社バカン
〒100-0014 東京都千代田区永田町2丁目17−3 住友不動産永田町ビル2階
TELL:03-6327-5533
MAIL:contact@vacancorp.com
URL:https://corp.vacan.com/
混雑情報提供サービスによりホテルのDXを推進 ホテルの体験価値向上と人材リソースの最適化に寄与
2022年03月23日(水)