ホテル・旅館は、ハードウエア、ソフトウエア、ヒューマンウエアの個々の要素が最終的に一体として認知されています。個別の要素が、独立して解釈されるのではなく、体験を通じて一体として「別の何か」に変換され、そのサービスの良しあし等として解釈されています。つまり、企画した新サービスを価値ある形として「具現化」するには、ハードウエア、サービス、スタッフそれぞれについての「仕様」を検討し、最終的に一つのサービスとして結実した顧客体験という一つの「シーン」を演出し、その際の顧客側の感情をシミュレーションすることを通じて、顧客がどのようにそれら新サービスをとらえるのかを検証する必要があります。つまり、ホテルや旅館では、時間軸をもって、各時点ですべての要素を調和させ空間をコーディネートしていく必要があります。そのための分析モデルの一つとして、システムエンジニアリングの世界でも利用されている「V字モデル」を以前ご紹介しました。
このモデルは製品や商品、サービス等の新規開発時に、「V」字に沿って必要なサービスや製品機能、デザインを検討していく手法です。「V」字の最初、左上の部位には顧客ニーズ特性の把握を据え、「V」字の下に沿って顧客ニーズに対応する製品の基本設計、詳細設計に進みます。その際には、設計通りに製品化した場合を仮に想定し、完成モデルをその都度構築し検証を平行します。ここで、自社単独で実現が可能なのか、部署間の協力が必要なのか、あるいは外部の力が必要なのか、新たな商品が求められるのか等、広い視野で実現するために必要な要素(点と点の関係)を徹底して議論し検証するプロセスを重視するのです。
その後、実際の実現化フェーズに移ります。当初の顧客ニーズとのギャップを確認しながら、具体化する製造フェーズである
「V」字の右上に沿って進みます。ここでも常に設計段階に検討した内容が盛り込まれているかを確認し検証を繰り返します。もし不具合が見つかれば、早急に設計等初期段階に立ち戻り、修正を加えます。自社のシーズ(強み)と顧客ニーズから、価値あるサービスを見出し、それを実現するために必要となるさまざまな必要な要素を組み合わせることで、他社がまねのできない新たなサービス提供につなげるのです。Vモデルで例示すれば以下の通りとなります。
ホテルや旅館は、ハードウエアとソフトウエアが融合することで、顧客側とっての利用価値だけではなく、顧客にとってイベントの一幕であるドラマ性の提供につながるような心理的価値を生み出します。さらにそこにヒューマンウエアが加わることでアート性までも帯びるのです。それらを完全に調和させるためには、ハードウエア、ソフトウエア、ヒューマンウエアを現場レベルでコーディネートするだけではなく、それぞれに影響を及ぼしている背後利害関係者相互の関係性にまで着目することが求められます。安定的運営のためには、営業等の対外部世界との関係についても、ビジネスが自然と成り立ち利益を生むような対外システム構築までもが求められます。つまり、どのような顧客をターゲットとしてどのようなサービスを提供するのか、つまり顧客との間にどのような関係性を築くかを考えることと同時に関係する要素それぞれにポジティブなフィードバックが循環する仕組みこそが、サステナブルであり外部環境にも留意した強いサービス提供となるのです。