まずこれまでの議論において最も注目すべき点は飲食店の扱いだろう。「当初案」では、喫煙可を選択できる店舗は、面積が30㎡以下(店舗面積か客席面積かは不明)と非常に狭く、個店経営者などの小規模事業者からは経営存続の危機が叫ばれていた。一方「閣議決定案」では既存店で、客席面積が100㎡以下かつ資本金5000 万円以下の飲食店が「喫煙」「分煙」等の標識を掲示すれば喫煙可を選択できるといった内容になっており、既存の飲食事業者にとっては当初案よりは現実的なものとなったように感じる。ただし、既存店に限った措置となっているため、今後出店する新規店は、面積や資本金に関係なく原則屋内禁煙(喫煙専用室のみ設置可)となり、非常に厳しい内容となっていることから、決して「緩い」規制ではないことは十分にご理解いただきたい。過去本誌でも数多くの事業者の声を届けてきたが、全国規模での署名活動といった地道な活動が行政に届いた形となったのではないだろうか。
しかし「閣議決定案」では大枠が決まったものの、喫煙室に求められる技術的基準や、既存特定飲食提供施設の“既存”をどう定義するかについてはいまだ明言されていない。特に既存店舗の定義については「子供が店舗を相続した場合には経営主体を同一と見なし“既存店舗”とするが、同一店舗であっても経営者が変わった場合には“既存店舗とならない”」など定義の基準については不明確であり、今後提示される諸条件に注目すると共に引き続き事業者の声を行政に届け続ける必要性があると感じる。
次に新たに織り込まれたこととして“加熱式たばこ”に対する定義と規制である。加熱式たばこが今回の法案では明確に「指定たばこ」として定義される旨が明記されている。扱いは紙巻たばことは少し異なっており、指定たばこ専用喫煙室内であれば、「客席面積100㎡超」「資本金5000 万円超」および「2020 年4 月1 日以降の新規店」においても、飲食しながら喫煙可(指定たばこのみ喫煙可)となっている。ただし、そもそも加熱式たばこについては、受動喫煙による健康影響について、「科学的根拠は十分ではなく、さらなる研究が必要」であるとの厚生労働省が見解を示しているにもかかわらず、規制対象とすること自体、いかがなものか。
また全面禁煙の店舗の場合、喫煙は屋外のみ可能というパターンが提示されているのだが、地方行政の条例で屋外での喫煙が不可となっている地域・エリアが数多く存在するにもかかわらず、その対策などが明記されておらず、こちらも現場目線から求められる規制内容について事業者の声を届ける必要があるように思われる。
ちなみに「閣議決定案」の違反者への対応については、過料も設けられており、喫煙禁止場所で喫煙した者に対しては30 万円以下の過料、施設等の管理権限者の違反には50万円以下の過料が科せられる。上記のように、既存飲食店のうち小規模店に関しては一定の配慮がなされた内容になってはいるが、いまだ課題点は多く、今後明らかになる政省令等の動向次第では規制が厳しくもなる可能性がある。施行開始まで猶予のある飲食および宿泊施設事業者においては、これまでの自主的な取り組みが認められ、施設を選択するお客さまの権利が守られる「健康増進法」となるよう声を届ける努力が必要であると考える。