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第278回 北村剛史  新しい視点「ホテルの価値」向上理論 〜ホテルのシステム思考〜

第278回『人工知能(AI)導入が進むホテル市場とそこでの差別化戦略とは』

【月刊HOTERES 2017年09月号】
2017年09月08日(金)
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 まず、「音声認識機能」により、スタッフのコンピューター入力にかかる手間を省き、顧客情報等必要な情報をすぐさま確認できるシステムが考えられます。「画像認識機能」では、レストランで提供される料理の温度管理や、「画像認識機能」を持ったウエアラブルグラス(眼鏡)等を着用することで、それらデバイスを通じて、個々の顧客が持つ個別ニーズや葛藤を含めた顧客情報をすべてのスタッフが即座に確認するとともに、その解決策を提供できるようになるほか、逆に顧客にそのような眼鏡等のデバイスを提供して、例えば上層階に眺望が開けたロビーがあれば、そこからそれらデバイスを通して街を望むことでタイムリーな街に関する店舗等の情報を含む地域情報を顧客に即座に提供し、ホテルロビーを地域のショールーム機能を強化する取り組みも増えているはずです。またレストランのメニューや混雑状況等ホテル内情報もそのようなデバイスを通じて提供することも可能です。さらに、そのようなデバイスは、清掃等の運営にも大きな機能を提供しているはずです。それらデバイスを着用したハウスキーパーが清掃後の客室を確認することで、清掃不備を高い確率で即座にチェックすることや、修繕管理担当者がそれらを着用し、館内を周遊するだけで、眼鏡等デバイスを通じて顧客が不快と感じるだろう要修繕箇所を一瞬にして見分けること、館内の温度管理や湿度管理、空調等の風量管理等についてもそれらデバイスを通じて適切に管理され快適な空間を維持するシステム導入も進んでいるかもしれません。レストランホールでは、それらウエアラブルな眼鏡等と一体化したデバイスを利用することで料理の素材や作り方、特徴や料理の歴史等顧客への正確な情報提供を行なうこともできます。ロビーや共用部、あるいは客室を含め、顧客に与えたいホテルのイメージに合致したしつらえになっているかを即座にフィードバックする「感性処理機能」を有するデバイスを利用するホテルも考えられます。「データマイニング機能」を生かし、エージェントミックスやイールドマネジメントを効率的に自動化するホテルや、口コミ情報から今後の運営に有用な情報を取り出し、レストランメニューの開発に生かす、あるいは、ホテル宿泊プランを開発するホテルが大半を占めているでしょう。共用部やロビー、また客室やバスルームにおいても、清掃用ロボットが至る箇所で見られるようになっているかもしれません。このようにさまざまなホテル運営場面において、高度に進化したAI がホテルになくてはならない、ある種パートナーの一つとして大きな機能を提供しているかもしれないのです。もしそのような環境が実現化した場合、どのような取り組みが差別化要素となるのでしょう。
 
 そこではAI では補うことができない個性がホテルに求められているはずです。以前もご紹介しましたがホテルや旅館には、その滞在体験を通じて自然と感じられる「人格」があります。人は、「人」ではない「物」に対して共感する場合、その「物」を擬人化して表現する傾向があると言われます。つまり、共感とは通常は「人」に対するものですが、たとえ「人」ではない「物」に対してもそれが有する人間性に触れ、その結果沸き起こる感情の起伏が望ましいものである場合、そこに「共感」を覚えるのです。弊社の調査では、ホテルや旅館での滞在体験を通じて「これまでにホテル・旅館に対し人格を感じたことがあるか」という質問に対して、約21%の人が「ある」と答えていました。当時の調査では、施設カテゴリーで見ますと人格性を感じたという人の約46%が旅館という結果でした。約28%がリゾートホテルであり、約19%がシティホテル、約7%がビジネスホテルという結果であり、「人格を感じたホテルにまた行きたいか」という質問に対しては約88% の人が「頻繁に行きたい~いつか行きたい」と答えています。この「共感」の心理的メカニズムにはおそらく「ミラーニューロン」と呼ばれる脳内の神経細胞が関連しているようです。人はほかの人が何らかの意図を持って行動している場面を見るとその行為者の脳内反応と同様の反応(脳内神経細胞の活動)を(見ているだけでも)脳内で再現しているのです。このように人には、観察している行為者の行為を脳内で無意識にシミュレーションすることで共感する「社会脳」と称される仕組みが備わっているのです。この「社会脳」があるために人の気持ちを理解できるわけですが、この機能が人の感情の伝搬にも一役買っているわけです。例えばスタッフの振る舞いを見ることで、そこに何らかのスタッフの有する行為の意図が想像できる場合にこの社会脳が働き、それが好意的に感じられる場合に共感するのです。ハードウエア、ソフトウエア、ヒューマンウエアは一体化して認知されています。スタッフに共感した場合に、スタッフを通じて感じ取った「人格」から、さらにホテルの質感やサービス内容といったハードウエア、ソフトウエアのさまざまな要素と相まって自然と醸し出されているもの、それがホテル旅館の「人格」と考えられます。
 
「人」以外に対して「共感」するには、高度な「人間性」を感じることが必要です。以前「接遇場面を通じて人間性を感じさせる認知上のメカニズム」をご紹介しました(※ 以前ご紹介しましたが、パソコン上でのコミュニケーション(チャット等)で、どのようなやり取りがあると、相手側が機械による自動応答(ロボット)ではなく、実際の人であると感じるかを調査したものです)。弊社の調査結果では、コミュニケーションにそもそも顧客側の「関与度が高い」環境であること×接遇者から「自己主張(客観的データや事実に基づくアドバイスだけではなく、私はこれが良いと思う、あるいは好きだと併せて答えてくる)」×「積極的な利他性(相手の立場にたって、より詳しく目的や予算等を確認してくる、つまりさらっとアドバイスして終わるのではなく、接遇者の負荷が増えても、あえて追加質問をしてくる)」、この三つがそろう場合に、共感する傾向が強まるという結果でした。「顧客側の高関与下」における接遇者からの「自己主張」×「積極的な利他性」=「人を感じる」という方程式があるとすれば、そのきっかけは、もちろんスタッフにとどまりません。顧客側には、その他ハードウエア、ソフトウエア(サービスメニュー等)を通じて、スタッフ同様、「共感」を引き起こすようなメッセージを伝えること、そこにこそ次なる差別化戦略があるのではないでしょうか。

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