1 つのホテルでも個性的な客室が
20 ~ 30 室も
徳江 何かほかとはちがう突き抜けた感覚を貫き通していく改革が望まれます。私が好きな鹿児島の天空の森は東京ドーム13 個分の18 万坪の敷地に5 つのヴィラが点在しています。まさにオンリーワンの究極なリゾートです。空港からヘリコプターによる送迎も行なうなど、贅沢な感覚はほかでは味わうことができないサービスであり、感動を与えます。
太田 先日も「スリープ(眠り)」をテーマとした海外の展示会に行ってきました。日本でも快眠をテーマとしたホテルが増加傾向にありますが、その設備や感覚は日本のホテルにはないさまざまなものが展示されていました。一つのホテルでも客室タイプが20 ~ 30 あり、それぞれが個性的な空間を作り出しています。日本は建築設計主導型ですからシングルやツイン、スイートなど画一的で同じ部屋が並んでいます。建築上、同じタイプのものをいくつか並べた方が簡単であり、費用面でも廉価に抑えることができるのかもしれませんが、多様化する消費者ニーズ目線で考えた場合、このままでは世界の人々に感動を与えることができないでしょう。もっと個性的なホテルがあっても良いと思います。音楽好きが集まるホテルや照明にこだわった人が集まるホテルなど、さまざまな個性の琴線に響くホテルを作り上げていくことが、今後ますます求められていくことでしょう。ホテルはこうでなくてはならないという業界の常識は世界レベルで見たときにもはや通用しないことなのです。
徳江 人材育成面でも日本は遅れています。次世代をになう次の10 代をどのように取り込み、グローバルに通用するカンパニーを作り上げていくことができるかが課題です。東洋大学も今春よりようやく国際観光学科が学部化し、本格的に観光を学問としてとらえ、世界に通用する学生の育成に取り組みます。経験知による教育も重要ですが、俯瞰的な視点で観光業の構造、在り方、課題などを見出し、体系的な視点で日本における観光産業を改善していくための下地が整いました。この4 月には360 人の学生が新学部である国際観光学部の一期生として入学します。“観光のことであれば東洋大学”と言われることを目指しています。
単なるマネではない、
日本らしいIR 改革を
太田 それは素晴らしいことです。日本では観光振興といいながらも国の機関としてまだ「観光庁」にとどまってます。世界各国を見ても「省」として構成されています。この時点で国はまだまだ観光業を認めていない、サービス業を認めていないことが分かります。これではどんなに旗を振っても次世代に魅力を感じさせることができません。ニューカマーを応援し、日々変化している消費者志向、ニーズに即したホテル運営をしていかなければなりません。中国や中東などの方が有能な人材育成に注力し、輩出しています。そんな中から3 人で150 ~ 200 室のホテルを運営できる仕組みを考え出した若者たちもいます。今やAI の時代です。もちろん、すべてがロボット化はできませんし、そうあってほしくない部分もあります。しかし人手不足の中、目に見えない部分のロボット化は不可欠であり、最先端の技術を駆使しながらストレスと感じさせないことが求められます。アジアのホテルでもチェックインも簡単で客室に入ると自動的に日本語に切り替わっていたり、iPad で照明の照度が操作できたり、カーテンを開けたりなど自在にできます。その点、日本のホテルは遅れています。まだまだアナログです。本当にこのままでは先進国でありながら、観光・サービス業においては後進国よりも劣り、日本のホテル経営に魅力を感じて志願する有能な人材を国内外から得ることは非常に難しいと思います。
徳江 その一方でIR 法案も可決し、ますますグローバル化対策に取り組まなければなりません。カジノの部分につきましては賛否両論ですが、どうとらえていますか。
太田 他国の成功事例を単にマネするのではなく、日本らしさ、日本人らしさをどのようにしてエンターテインメントに盛り込んでいくことができるかが課題です。日本に来なければ感動を得られない、日本独自のものを作り上げていくことです。建築主導型ではなく、想定する顧客層の目線にあったものは何かを徹底的に追求し、形にしていくことです。ユニフォーム一つにしてもそうでしょう。ちょっとした家具やイスなど、壁画など、すべてにおいて日本独自のものを作り上げていくことで世界各国から多くの方に来ていただける場所になるのだと思います。そのためにももっと視野を広げ、見聞を広げ世界を見てほしいですね。
世界は確実に変化しています。変化していないのは日本のホテルだけなのかもしれません。
徳江 厳しい一言ですがまさにその通りだと思います。次の世代のためにも学問的に、体系的に観光業をとらえ、早急な改革ができる人材育成と魅力ある業界作りを目指して、本誌の対談の中で観光業に関わるさまざまな方々の事例から、次なるヒントを発信していきたいと思います。
本日はありがとうございました。
徳江順一郎氏 プロフィール
東洋大学国際観光学科准教授。上智大学経済学部経営学科卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。大学院在学中に起業し、飲食店の経営、マーケティングやブランディングのコンサルティング、インテリアを中心とするデザインのビジネスなどを開業する。2006 年より大学の教壇に立つようになり、産業能率大学、高崎経済大学、桜美林大学などを経て、2011 年に東洋大学に着任する。『ホスピタリティ・マネジメント』『ホテル経営概論』(同文舘出版)、『ホテルと旅館の事業展開』『ホスピタリティ・デザイン論』(創成社)など、著書・学術論文多数。本誌でも2014 年に「ホスピタリティの処方せん」、2015 年に「旅館革新の旗手たち」を連載。
㈱オータパブリケイションズ 代表取締役社長
太田 進