田中 約3000 年にもおよぶ歴史を持たれていらっしゃいますね。中東宮司様は日本神話をとても大切にされ、その神話を基本としたさまざまな取り組みをされていらっしゃいます。
中東 日本の文化の礎は神話にあるのです。これが失われると根無し草のようになって、国は滅びてしまいます。神道の心は「感謝と調和」です。これを広く発信し、次代を担う子どもたちに伝えていかなくてはなりません。長い年月をかけて築き上げた祖先の知恵を学ぶことによって、日本人としての誇りが生まれます。今、便利な物が次々と作られ、人々はそれを追い求めています。大きな時代の流れの中で、利他を顧みない唯物志向の増大と、経済至上主義によって、世界は混乱状態にあります。山のように膨れ上がった人間の強欲は留まるところを知りません。人々は貪欲となり、感謝の心を忘れています。だからこそ神道の心が必要なのです。
田中 おっしゃる通りで、さまざまなものが発達することは素晴らしいことなのですが、同時に日本人として、人として大切な心が失われつつあります。相手を思いやる心、感謝をする心が薄れているような気がします。
中東 日本の文化は神話とつながっています。例えば神社の祭礼に飾られる榊と五色の布、三種の神器。神話では須佐男命(スサノオノミコト)の乱暴狼籍を見かねて、天照大神(アマテラスオオミカミ)が岩屋戸にお隠れになったときに、神々が祭りを行ない、その折に祭場を飾ったのが、先ほどの品々です。考えてみると日本という国は、神代の昔に行なわれていた姿が、今も再現されています。超古い文化と超新しい文化が調和している、世界でもめずらしい国なのです。これはほんの一例です。祭りの中で神様を称える美しい祝詞を奏上し、踊り、神々が大笑いしたところ天照大神がお出ましになりました。これは感謝の祈りを捧げ、感謝の心を、踊りと笑いで表現したときに、幸せがいただけることを教えているのです。岩屋戸に戻らないよう縄を張ったのが注連縄(しめなわ)の起源です。実は「お笑い神事」はこの神話を題材にしているのです。
田中 「お笑い神事」はいつから始められたのですか。
中東 太古から行なわれていて、内輪だけ(20 数名)で笑っていたのですが、これはもったいないと思い、誰でも参加できるようにしました。20 分間笑い続けるのですが、多くの人が無理だと言われます。長時間笑うためにはコツがあるのです。長く笑うためには有ありがた難い、嬉しい、幸せ、楽しい等々何でもいいのです。感謝をイメージすれば笑えるのです。赤子は笑えと言われなくても、無心に笑っています。赤子の笑いは神笑い、と言われています。感謝のイメージをもって無心に笑っていると、心の岩戸が開かれ、私たちの体の奥には無限の神様の力が存在していることを体感できるのです。最初の5 分は大変なのですが、だんだん神氣が身体に満ちてきて、周囲の笑い声と調和して楽しくなり、体がひとりでに動いて、20 分間は瞬またたく間に過ぎてしまいます。近年は“ アンコール” の声がかかるほどです。一般参加の当初は120 名でした。翌年は500 名、その次は1000 名と回を重ねるごとに増えて、昨年は4000名を超えるまでになりました。笑うことにより60 兆の細胞が活性化され、心身ともにリフレッシュします。まさに新たな一年を迎えるにふさわしい神事なのです。
田中 感謝の気持ちは大切なことであり、お互いに生きていくためには欠かせないことです。ところが最近は“ ありがとう” という感謝の言葉を言えない方が増えています。
中東 人は次第に唯物化し、目に見える物だけを追い求めるようになりました。ひたすら物を手に入れて幸せになろうとしています。その結果自然が破壊され、自然災害が多発し、新たな病気やストレスに悩まされ、すべてに行き詰まりを感じています。土や水の力、空気や光の力、このどれ一つ欠けても私たちは生きることができません。私たちの祖先は、これらの不思議な力に、神々の名前をつけて感謝してきたので、八百万(やおよろず)の神が生まれました。これらは小学生で習った光合成(炭酸同化作用)と同じです。植物は根から水分を吸い、土の微生物の働きを受け、葉からわれわれの出す二酸化炭素を取り入れ、光を受けて澱粉(でんぷん)を作っています。人も植物もこれらの恵みによって生かされているのです。またすべての物は究極まで追求していくと、目に見えなくなってしまいます。微細は一つの細胞は宇宙のように広がっていると言われています。私たちの細胞は60 兆あるので、60 兆の宇宙を内在していることになり、無限の働きを秘めていることになるのです。免疫力(自然治癒力)もその一つです。見える物の奥には見えない働きがあって、先人はそれを神として感謝してきたのです。まさしく「無一物無尽蔵」なのです。
田中 神々への感謝、思いやる心、これがまさに日本人の“ おもてなし” の原点ですね。
中東 思いやる心、感謝の心があれば、自然に対しても人に対しても優しくなります。お互いに相手を思いやる心を有すれば、悲惨な事件も少なくなるでしょう。神道の感謝と調和の心を伝えるために、「巫女研修」や「子供ひらおか塾」、「みそぎ研修」などを行なっています。「巫女研修」では、日本の歴史や神話、礼儀作法、笑いの実践、祝詞奏上や瞑想など、日本の文化を一日かけて学んでもらいます。初級を受けた人は中級、さらに上級を受けられ、その数は千人を数えています。「子供ひらおか塾」では、境内の森で自然の不思議な働きを体感してもらうと、みんな目を輝かせて生き生きと動き回っています。近年は神棚や仏壇のない家庭が多いため、手を合わせる習慣がありません。生活環境の変化とともに、感謝の気持ちが薄らいでいます。神話から祖先の大らかな心を学び、目に見えない奥深い世界のあることを、多くの人に知ってもらいたいと思っています。
第2 回
老舗の本髄 第2回 河内國一之宮 枚岡神社 宮司 中東 弘氏 × Venus Rose Association 代表 田中みどり氏
目には見えないものの存在を知り 感謝の気持ちを笑いで伝える「お笑い神事」 ~20人からスタート、8年で日本全国から約4000人集結~
【月刊HOTERES 2017年09月号】
2017年09月15日(金)