- ㈲日本フードサービスブレイン 代表取締役
フードビジネスカウンセラー - 高桑 隆 プロフィール
みなさんは、東京都心の地下鉄大手町駅に降りたことがあるだろうか? 地下の駅から、エスカレーターで地上に出てみると、すさまじい高層ビルのラッシュに驚くことだろう。大手町地下鉄駅の上に、ひときわ目立つ3棟のビルが建っている。手前が、経団連ビル、真ん中がJAビル、奥が日本経済新聞社のビルである。
ここで疑問が湧いてくる。何故、東京都心にこんなでかい(地下3階、地上37階、延べ8.8万平米)JAビルが存在するのだろうか?
JAとは、日本agriculture、つまり農業の中核団体のはずである…。このあたりに、畑や田んぼがあるだろうか?
農業の中核団体なら、そこから日本全国の農家へ“こうしたらもっと収穫量が増えるヨ”とか、“肥料の撒き時は、この梅雨明け直ぐにして下さい”など、農業情報の発信基地でなければならない。であるなら、もっと田園地帯、肥沃な平野部にド~ンとドデッカイ本部を設置すべきでではないのか?
大手町は、皇居のすぐそば。国会や国の行政機関に、非常に近い場所だ。“農業を守れ!”“農業の補助金よこせ!”など、国や農水省に働きかけるには、格好の場所なのだろうが、どうもスッキリしない。
しかし好立地にあるJAビルやJAグループ・ビルは、ここだけではない。東京都心の一等地に、数多くのビルを保有しているのである。
例えば新宿。新宿高島屋百貨店の並びに、JAビルと「家の光」ビルがある。どうして知っているかと言えば、10年前から私は、服部栄養専門学校でマネジメントの授業を担当しているためだ。
学校のすぐ近くだから、授業の合間や昼休み、何度もここを通って発見した。現在「家の光」ビルは、建て替え中のため建築壁で囲われている。
初めて知る方も多いと思うが、新宿周辺に同じ様なJAビルが7~8棟存在する。農民のわずかな会費から成り立つはずのJAグループ、その資金をもとに、汗と努力で成り立つ組合運営。そうした結果、こうした都心の一等地に自社ビルを保有することができたのだろう・?・?と思いたい。果たしてどうなのか?
現在新築中の新宿「家の光」ビルには、農林中金が入居することになっている。これも、世間にはあまり知られていないが、農林中金の2014年度決算は“過去最高”だったと公表された。決算数字は、以下の通り。
- 経常利益5145億円(前年比170.3%UP)
- 純利益 4113億円(前年比164.1%UP)
この決算に関しては、新聞の扱いも小さいため、一般の人々の関心は低いが、これには驚かざるを得ない。よく考えてもらいたい。昨年度、わが国の農業界は、過去最高の収穫を誇って、好景気に沸いたのだろうか…?
いいや、作柄は平年並み。それどころか、異常気象の影響で、地域によっては全滅状態のところも数多く存在した。
忘れもしない昨年、大島の土砂災害、連続する台風による洪水、広島市郊外の土砂崩れ……。自然を相手にする農業には、過去考えられないくらい甚大な災害が襲いかかった年であった。
今年もひどい状況は続いている。秋の鬼怒川堤防の決壊。TV中継を見ながら自然災害の恐ろしさに身震いしたものだ。あの濁流の中で、実りをむかえていた田んぼの稲は全滅。どんなに、科学技術が発達しても、農業は自然災害から逃れる事はできない。
220万人いる農業者のほとんどが、小規模農家だ。本来なら、これらの農家に農林中金が融資をして、そこで収益を上げるのが役割ではないのか?
銀行の発表では、前面に「農業の発展」に貢献するとか、「強い農業を作る」とか、「農業界唯一の金融機関」といううたい文句が躍る。
しかし、本当にそうなのか? 農林中金の利益のほとんどは、本来の農業への貸付・投資などの構成比は低く、大部分は「金融事業」で稼いでいるのが実態だ。農林中金の金融関連企業は18社にのぼり、ほとんどが為替や投資、リース等の金融業務中心の企業活動をしている。
筆者は、経済アナリストではないので、詳細の分析はできないが、ここに書いた事実から読者諸兄は何を思われるであろうか?