コスプレ文化も日本が世界に誇るエンタメコンテンツの一つだ。“日本文化”の総合博覧会である“JAPAN EXPO”では数多くの外国人が日本のアニメや漫画の登場人物を模したコスプレで来場する
㈲Imagination Creative 代表
方喰 正彰 氏 Masaaki Katabami
東京・秋葉原を拠点とし、情報収集・分析を得意とするプランナー&編集者。企業・行政・個人の社外ブレーンとして事業や商品やサービスの企画・広報・ブランド構築など多岐にわたったプロデュースおよびコンサルティングを手掛ける。秋葉原と企業を結び付けるための稀有な存在として支持を得ている。寺院とのコラボ書籍、ローカル鉄道のグッズ企画など、個人から上場企業まで、業種・業態にとらわれずにさまざまなプロジェクトで実績を重ねている。現在は、段ボール蒸気機関車プロジェクトの事務局長や“執事のためのアパレルブランド”を立ち上げるなど多方面に活動をしている。主な著書に『マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命』(サンガ)、『とことん調べる人だけが夢を実現できる』(サンクチュアリ出版)がある。
前回に引き続き、今号でも㈲Imagination Creative 代表の方喰正彰氏にご登場いただく。前回は日本のエンタメ業界の改善すべき現状について伺ったが、今号では日本が世界に先駆け成熟させている、もしくは今後勝負し得るストロングコンテンツについてお話を伺った。
総製作数約100種。LINE スタンプの分野でも方喰氏のプロデュース力は定評がある
王道から地下系、ご当地まで今やアイドルの聖地となった秋葉原。国際的にも“Akiba”として知られ、Cool Japan の代名詞のひとつになっている
アイドルの聖地、世界の“Akiba”、秋葉原
エンタメという面で日本が世界的に安定した人気を保持しているのが秋葉原に代表される“オタク文化”ではないでしょうか? すでにさまざまな国に日本文化を愛好する“Otaku”が存在します。そのオタク文化においてここ近年、もっとも派生率が高く、花開いたのがアイドルだと思います。秋葉原、アイドルというと“AKB48”を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、AKB48 があって秋葉原にアイドル文化が根付いたのではなく、もともと地下アイドルなどオタクの人たちが応援するアイドル文化があるところにAKB48 が上陸してきたといっても過言ではありません。いずれにしても48 グループの躍進があったことで地方の地下アイドルやご当地アイドル市場も盛り上がりましたし、秋葉原がアイドルの聖地と化していきました。地下アイドルという存在もヲタ芸がメディアで取り上げられることで秋葉原から全国区になりました。もともとオタクの人たちが嗜好するアニメや声優、ゲーム、サブカルといったカルチャーとアイドルは傾向として合致するものが多く、潜在的にオタク市場にかかわるモノ・コトが多く集まるエリアであることも秋葉原がアイドルの聖地と化した理由としてあげられます。結果として地方でアイドル活動をしている人たちにとっては“東京=秋葉原”の図式ができ上がりましたし、「でんぱ組.inc」のように秋葉原と紐づいたところから人気に火がつき、海外での活躍へとつながったグループも誕生しています。日本のアイドルは世界でもあまり例をみない日本独自のスタイルを持つエンタメジャンルですから世界のオタクコミュニティに向けて発信をしていくことで大きな日本への吸引力とすることができるのではないかと思いますし、そこへ向けたマーケティング戦略を立てるのも有益だと思います。
キャラクター文化の育て方
ところで日本のエンタメカルチャーで潜在的なポテンシャルが高いにもかかわらず、方法論がマッチしていないことでなかなか成功市場となりえていないのがキャラクター市場だと思います。例えばレディ・ガガやパリス・ヒルトンがファンを公言しているサンリオの「ハローキティ」や日本の漫画として海外でも人気のある「ドラえもん」、「クレヨンしんちゃん」などは若干商業ベースに乗っているところもありますが、全体的に日本はキャラクター文化が豊富な割に商業ベースに乗せるのが下手な面が見られます。一因として作りすぎ現象が弊害になっているところがありますね。ゆるキャラなどが解りやすい事例だと思います。もうひとつは卒業させない仕組みづくりがうまくいっていない感があります。例えば日本では3 歳くらいまでは男女ともに「アンパンマン」、そのあとは女の子は「プリキュア」、男の子は「機関車トーマス」などを好む傾向があります。しかしその熱狂がある一定の年齢までと一過性のもので終わってしまっていてキャラクターからの卒業を迎えてしまうのも現状です。一方で海外のキャラクター、例えば「ディズニー」や「スヌーピー」、「ムーミン」などは“卒業させない仕組みづくり”がうまくいっていることで人生の中で何度もそこに戻るタイミングがあります。例えば周年事業もそうですし、また親子三代にわたって愛好するなどの仕掛けもそれに当たります。ただ「ベネッセコーポレーション」のこどもちゃれんじキャラクターである“しまじろう”は読者の年齢に合わせてキャラクターを成長させることで継続購読に結び付くビジネスモデルを構築しましたし、学習教材のアイコンから一般的なキャラクター商材へと昇華させることにも成功しています。このようにビジネスモデルがきちんと構築できればアニメや漫画のキャラクターなど世界的に人気のある日本のキャラクターは数多くありますから、まだまだ伸びしろのある市場だと思いますし、長期市場を作れるジャンルなので今一度戦略を見直すとよいのではないかと見ています。
観光産業はもっとオタク市場が持つ潜在力に注目を!
ところでオタク市場におけるエンタメといえば昨今、いろんな観光施設や観光地のコラボレーションが成功しています。「ガールズ& パンツァー」との町をあげてのコラボで東日本大震災の痛手から立ち直った大洗の事例は特に有名ですし、秋葉原の「秋葉原ベイホテル」は継続的に何かしらコラボをしています。「大江戸温泉物語」の「鬼滅の刃」とのコラボなども大成功事例ですね。ちなみに何かに特化することがエンタメ観光に必須なわけではありません。例えば山奥の辺鄙な場所にある旅館はその辺鄙さを逆手にとり、コスプレーヤーのお客さま向けに撮影プランを販売することで人気を博しました。映画やドラマの撮影地やアニメの舞台といった決定的な何かがあるに越したことはありませんが、川越のように古き良き情景が残っている町などはその趣がコスプレの撮影イメージに合っているということで誘客魅力となっている可能性があります。逆にいうとコスプレを軸に観光魅力を作ることも可能なわけです。オタク市場というのは観光ではなく行動目的のために旅行に出ますから、何かしら彼らの受け皿となる装置を用意することで観光魅力につなげることはコンテンツ数の多さからかんがみても決して難しいことではありませんし、事業者や行政がその気になれば協力を惜しまないコンテンツホルダーも多いと思います。ただ残念なのはそういったコラボに対してオタクの人たちを出迎えるおもてなしやサービスに、厳しい言葉を使えばリスペクトが見られないことが多いという現状です。例えば大洗などは町の至るところにキャラクターのパネルやのぼり旗が掲げられていますし、アニメファンとの会話にかなう予習を皆さんアニメを見てされている。結果としてコミュニケーションが盛り上がり、町への帰属性が高まりますからリピーターも多く獲得していますし、コミュニティーが育ったという経緯があります。このように何かのストーリーやキャラクターと組むのであれば少なくともそのコンテンツに関する基礎知識は得ておく、コスプレの撮影需要に訴求するのであれば着替えやメイク用の部屋や照明などの移動に負荷のかかる撮影機材は施設で用意するなど、お客さまの滞在がより楽しいものとなるちょっとした心遣いも込みで企画されるべきだと思います。もちろんさまざまな形で既におもてなしについて取り組まれていると思いますが、オタクの人たちを一つの市場と見るのであればそこに対する取り組みがまだまだ薄い気がしますし、オタク市場の大きさを観光業界はもっと注目すべきではないかと考えています。
(取材・本誌 毛利愼 原稿 飯野耀子)