「ドメーヌ」の精神はワインでは当たり前日本酒も同一の風土の水と米で造るべき
島田 仙禽が採り入れている「ドメーヌ」の考え方について教えてください。
薄井 「ドメーヌ」の精神はワインの世界では当たり前ですが、日本酒の世界は採り入れてきませんでした。その背景には 100年前に酒造好適米ができてから、遠くにある生産地から酒造りに使う米を買ってくる形が当たり前になったという流れがあります。酒造好適米が開発される前は、みんな地元の米を使っていたわけです。仙禽のドメーヌの精神はそのころのやり方に回帰しただけの話です。
私たちは基本的に、地元の栃木県さくら市の風土の中で育った米を使うという姿勢で酒造りに取り組んでいます。仙禽は地元の地下水を使って酒を造っていますから、地下水と同じ水脈で育てた米の方が私たちの酒には合うと考えています。
1000㎞以上離れた兵庫県の風土で育った米を仙禽の蔵で酒に変えても、どうしても違和感があります。使う原材料はすべて同じ生育環境の中で完結することが一番だと思うのです。日本酒は農業の一環から生まれるものですから、同じ風土で完結させるドメーヌの精神をもって酒造りに取り組むべきだと私は考えています。
島田 「ナチュール」の精神によるブランディングについて教えてください。
薄井 「ナチュール」の精神は今、ボーダーレスになっていると思います。ワインでもビールでも、「自然派」というのはもはや一つのジャンルとしてくくるべきものではなく、もっと根源的な要素としてとらえられてきています。すべての民族の根底にある精神の一つであり、人体は無機質なものよりも有機質なものを必ず求めます。
例えばスウェーデンは何十年も前から、農業の在り方について時間の巻き戻しに取り組んできました。「どうしてオーガニックの野菜も安いの?」と聞いたら、「農薬を使っていない分、安くなるに決まっているじゃないか」と当たり前のように答えます。100年前、200年前の農業のスタイルに戻すことに成功しているのです。日本の農業のスタイルも日本酒を通じて戻していきたい。仙禽のナチュールの精神の根底には、そうした思いが含まれているのです。