TrackITブロックチェーンのキービジュアル
イタリア貿易促進機構(ITA)は、メイド・イン・イタリアの製品に関するトレーサビリティのバリューチェーン(価値連鎖)「TrackIT Blockchain」プロジェクトを2022年末から推進している。これは製品と製造過程の情報を追跡可能なデータとして記録し、いつでも誰でもがQRコードを読み取るだけでその内容を追跡することができるサービスとなっている。このため商品に信頼性が生まれ、イタリア製造業の競争力を高めることにつながっている。イタリア大使館貿易振興部部長のジャンパオロ・ブルーノ氏に食品・飲食業界での活用法およびマーケットへの今後の展望について聞いた。
イタリア大使館貿易促進部部長のジャンパオロ・ブルーノ氏
トレーサビリティで分かるイタリアの食文化
イタリア料理の人気は世界各地で定着しているが、人気料理ゆえにイタリア食材・料理などの商品は増え続け、中にはイタリア現地で作られたように見せかけたイタリア産でない模倣品が市場に溢れている。イタリアを想起させる名称や画像、商標を使用していながら、実はイタリアに帰属していない商品もあるという。
「残念ながらMade in Italyを謳いながら、本物でないものも存在します。イタリア産を標榜する商品の模倣品は“イタリアン・サウンディング”と称されて問題になっていているのです」と語るのはイタリア大使館貿易促進部部長のジャンパオロ・ブルーノ氏だ。
「例えば、「パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ」とは正しくはパルマ地方のエミリア・ロマーニャ州の地域の水、牛乳で伝統に則って作ったものだけが認定される。しかし、パルミジャーノ・レッジヤーノ・チーズを連想させて本物だと錯覚を起こさせる、何種類かのチーズを合わせた粉チーズが似た名前で流通していたりする。まさにイタリアン・サウンディングの一例だ」
「偽物対策として、本物すなわち100%イタリア産にこだわり、良質な商品だけを提供していくことに使命に掲げて、イタリア貿易促進機構が資金提供してBlockchain TrackITを2022年末にスタートしています。これは偽物に対処するもので、透明性の高い製品情報の検証をブロックチェーンの技術を活用して行なっています。製品の原産地、生産工程、イタリアでの製造に関するサステナビリティや真正性などについて、登録した企業の主張が正しいかどうかを確認することができます。製品、名称、商標を模倣し、イタリア製品らしさを偽装する“イタリアン・サウンディング”現象にも歯止めをかけることができるのです。
トレーサビリティのためのブロックチェーンは、情報の透明再確保に有用なツールであり、記録されたその記録日時に手が加えられていないことを保証しています。製品がどこから来たのか、どのように生産されたのか、消費者との信頼関係を構築でき、製品データを記録する企業の役割も引き受け、真実でない情報が含まれないようにする抑止力にもなります」
現在、参加企業は360社以上となり、そのうち66%が食品・ワイン部門だ。消費者との信頼関係を構築するとともに、イタリア企業の独創性や知的財産権を守り、それらを侵害する模造品の抑制につなげる役目を果たしている。ちなみに、イタリア産の模倣品の被害額は年間約1200億ユーロに上っているのだという。
イタリアの名産品のおいしい物語を知る
南北に長いイタリアは各地の気候風土に合った名産品が作られている。エミリア・ロマーニャ州のプロシュート・ディ・パルマは「パルマハム」として世界に名高い。プロシュート・ディ・パルマを作るのには乳清(パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズの副産物)、健康な豚、乾燥した空気、塩。そして継承されてきたノウハウも欠かせない。美味しい商品はその気候風土でしか作れないものであり、それを大切にしたいという。名産品のだからこそのおいしいストーリーが生まれ、語り継がれ、人々の記憶に残るのである。
ブルーノ氏はまさに「TrackIT」の活用が有効なツールなので、本物志向を極めるには最適だという。
「TrackITはブロックチェーンの技術を用いて、イタリア製品のトレーサビリティを管理し、保護、プロモートするデジタルプロジェクトです。イタリアの生産者の多くは零細企業や小規模企業で、こうしたシステムを自社で構築するのは資金的に難しい。ブロックチェーンの技術を持つ民間企業とITAが組んで開発したこのプロジェクトはITAによるイタリア企業支援の一環といえます。消費者の健康や安全性への関心が高まり、食品への関心も深くなっています。また長い歴史と伝統を持つ企業にとって、素材や加工の工程を特定でき、知ってもらうことは大きな強みと言えるでしょう。
また、通常はイタリアのメーカーが自主的に登録していますが、代理店企業が取り扱う製品の登録をメーカーに依頼する動きもあるようです。並行輸入の製品が流通している場合にも使えるでしょう。より多くの日本の方々に知ってもらい、活用してもらいたいと思っています」と付け加えた。
QRコードで情報を気軽にチェックできる
QRコードを読み取るだけで、各社の製品情報や製造過程における申告内を確認することができ、各社の製品情報や製造過程における申告内容を確認することができる手軽さで、ブロックチェーンによるトレーサビリティシステムはイタリア製品への信頼性を高め、イタリア製造業にあっては競争力を高めることにつながるともいえよう。
また、イタリア大使館貿易促進部が100%Made in Italyに力を入れるのは、もう一つの理由がある。イタリア政府は2023年3月23日、「イタリア料理」をユネスコ世界無形文化遺産登録に申請したことを発表した。イタリアの食関連では既に、「地中海食」や「ナポリのピッツァ技法」、「パンテレリア島のブドウ栽培」などが世界無形文化遺産として登録されているが、「イタリア料理」としては政府が正式に登録申請したのは初めてで、2025年に発表がある予定だ。
イタリアは食文化の宝庫。「イタリア料理」がユネスコ世界無形文化財に登録をされれば、料理の素晴らしさだけでなく、イタリアのライフスタイルそのものを世界に発信する大きな原動力になるに違いない。その時に100% Made in Italyの商品が大きな役割を果たすことだろう。
1. このプロジェクトでイタリア貿易機構(ITA)がサプライチェーンを追跡する機会を提供するのは大企業や中堅企業だけだはなく、ITAの財政支援がなければこのテクノロジーの導入が難しいと思われる零細企業や小規模企業もその対象となっている。
2. 異なる第4セクターの企業を対象としたプロジェクトであること。
3. ITAがメインスポンサーであるために、組織的なサポートが受けられる。
4. 主に使用されているブロックチェーン・プロトコルはPolygon。Proof of stake(PoS)コンセンサス・メカニズミによって、スケーラビリティとエネルギー効率が得られる。
5. Made in Italy製品を保護するために、エンドtoエンドのトレーサビリティを強化し、消費者の信頼を高めるとともに、デジタルプロダクトパスポート(DPP)をサポートする。
※興味がある方はビデオの視聴もできます。
イタリア大使館ローマ本部提供ビデオ
video con il voice over.