日本に根ざしていたい正直な気持ち。
仕事だけでなく、生活するにも、家族と子供を育てるにも素晴らしい国 「日本」。多くの旅行者は、世界の多くの地域には必ずしも存在しないものを東京で発見し、惹かれている。
ー ザ・ペニンシュラ東京 総支配人 マーク・チューン
(General Manager, The Peninsula Tokyo)
ザ・ペニンシュラ東京 総支配人 マーク・チューン氏
ザ・ペニンシュラ東京で展開されている「アーティスト・イン・レジデンス」プロジェクトと浮世絵師とのコラボレーションについて教えてください。
チューン氏:浮世絵師とのコラボレーションは全く新しい試みです。「アーティスト・イン・レジデンス」と呼ばれるシリーズの3人目のアーティストです。「アーティスト・イン・レジデンス」シリーズは豊かなライフスタイルをご提供する特別なホテルとして、アート業界やアーティスト支援の一助になれればという想いのもとに実施しており、アーティストがホテルに滞在しながら客室をアトリエとして利用し、そこで実際に作品を制作してもらいます。
9月にご一緒したアーティストはOZ(オズ)さんで、彼は現代スターや風景を伝統木版画で表現する版元UKIYO-E PROJECTにおける、日本特有の思想や感覚、現代の発想や画法を融合する画家であり絵師です。
面白いのは、彼の経歴は浮世絵出身ではなく、どちらかというとグラフィックなアーティストだということなのです。彼はその経験や技術をもって浮世絵の世界に入りました。昨今、日本の伝統工芸や芸術、職人の多くは、世代を超えて知識や技術を受け継ぐ先が無くなってきています。これらの日本の伝統芸術は主に家族から家族へ、世代から世代へと受け継がれてきたものが多いですよね。ですから、このプロジェクトを通して私はいつもアーティストにとって私共のレジデンスに滞在する価値やメリットは何かと問いかけてきました。今回のように、アーティストが何をしようとしているのか、彼らが伝えようとしているメッセージが、より多くの人や地域社会の目に留まり、知られるようになっていく形を共に生み出せることを非常に嬉しく感じています。
OZさんを迎えての「アーティスト・イン・レジデンス」プログラムは、とても面白い試みとして、今回初めて、スタジオでの体験の一部をホテルのロビーに落とし込むということをしました。計8日間、午後2時から4時までの間、ロビーの一角にライブパフォーマンスのスペースを作り、お客様に彼の職人技を実際にご体感いただきました。
OZさんを迎えての「アーティスト・イン・レジデンス」のライブパフォーマンス
3メートル✕3メートルの真っ白なキャンバスを2時間で、とても壮大で色鮮やかに昇華させる能力には、目を見張るものがありました。第3回目の「アーティスト・イン・レジデンス」の幕開けに、胸が高鳴るものがありました。
「アーティスト・イン・レジデンス」は今年の初めに始まったプログラムで、既に2人の国際的なアーティストにご滞在いただきました。ザ・ペニンシュラホテルズにとって、アートは常に非常に重要な要素のひとつです。
チューン氏の典型的な1日の過ごし方を教えてください。
チューン氏:普段の日常のスケジュールですが、家では一番最初に起きて、最後に寝るのが私です(笑)。
妻と12歳の息子と5歳の娘に加え、2歳のミニチュア・シュナウザーがいます。まずは愛犬と私は朝一番に起きて、愛犬は朝食をとり、私はコーヒーを飲んで新聞を読み、それから朝の散歩に出かけるのが日課です。それから、子供たちの一人を学校へ見送る余裕があるので、毎日息子をバス停まで送ってからオフィスに向かいます。
私は50代半ばに差し掛かっているので、できる限り健康でいようと努めています。
簡単なことではないのですが・・・(笑)。ですから、朝のどこかのタイミングで少し運動をするようにしています。日本や東京は、混んでいてスペースが無いようで意外とスペースがあるなと感じていて、ひとたび外に出れば、ウォーキング、ランニング、サイクリングができる素晴らしい街です。年中スポーツなどに積極的で活動的な日本人がたくさんいることにいつも感心しています。
ザ・ペニンシュラ東京「ザ・ロビー」
日本での生活で感じた驚きや文化の違いを教えていただけますか?
チューン氏:日本に住む外国人として、頻繁に、まったく知らないこと、謎に感じるものに出くわすことが多いです。でも、立ち止まり、待って、物事が起っている様子を眺めていると、ようやくそれが何かというのが分かってきます。それが東京の美しさであり、魅力だと思うのです。立ち止まって、それに気づく時間を持つこと。そして、それはいつもちょっとした笑顔をもたらすのです。
今思い出すと、初めて、ある装置を見かけたのは、学校かオフィスビルの入り口だったと思います。V字型でカーペット素材が敷かれた、幅1メートルほどの装置でした。私は、それが一体何なのか分かりませんでした。漢字で何か書いてあったのですが、グーグル翻訳が登場する前でしたので、全く理解できませんでした。しかし、私はその装置にとても魅了され、それが何なのか知りたい、と思ったのです。頭の中で考えを巡らせ、どうしても知りたかったのです、どういうことをする装置なのかを。
確かその時小雨が降っていました。そうすると傘を差した人が来て、おもむろに傘を閉じ、傘を中に入れ、くるくると回し始めたんです。そして、彼らはさっとその場を去りました。
もちろん、互いへの思いやりなどを考えて作られたのだと思いますが、それ以上に重要なのは、その瞬間をとらえるために誰かが実際にその装置をデザインし、プロデュースしたという事実そのものに驚きました。
何と呼ぶかはわかりませんが・・・傘の水受けとでも言うのでしょうか。
私はそう呼んでいます(笑)。皆さんにとっては、ごく普通のことかもしれないですが、私にとっては新鮮でした。
友達が海外から来日した時にはいつもその装置を指して紹介します。「これは何だと思う?」と。友人たちは、「全くわからない!」と言います。私は、「まぁ、見ていてください。そのうちわかるから」と誇らしげに返事をしています(笑)
それと文化の違いで言うともう一つ一例を挙げるとしたら、東京では、急いでいる時に簡単な取引をするのはとても難しい、ということです。
最初に東京に住んだ時のことです。今は亡くなってしまったのですが、当時の愛犬でシュナウザーを飼っていて、その愛犬の散髪の予約が必要だったので、妻と一緒にドッグ・グルーミング・サロンのそばに車を停め、妻にお店に立ち寄ってもらいすぐに予約を入れるつもりでした。
彼女は中に入り、5分経ち、10分経ち、15分経ち、20分経っても出てくる気配がありませんでした。痺れを切らして彼女に電話をし、「予約でいっぱいなのか?」と聞くと、「いや。最初の5分で予約は入れられたわ」と返事が返ってきました。「じゃあ、なぜそんなに時間がかかっているの?」と聞くと、「26ページもあるカタログを見て、トリマーが長い毛がいいか、短い毛がいいかを知りたがっているの。お腹の毛を剃るか、サイドを出すか。眉毛は分けるか、揃えるか?」と(笑)
最初は急いでいるから、なぜそんなに時間がかかるのかと不思議に思うでしょう。でも、その時は考えもしなかった、そういった細かい部分への配慮を後になって有難く感じるということがよくあります。
旅行者にとって東京の魅力とは何だと思いますか?
チューン氏:美しい、新しい、ガラス張りのタワービルが、50年前や100年前からそこにあるような伝統的な住宅や商業ビルのすぐ隣にあるのを見ると、このようなコントラストでさえも意味と目的があるんだと思うんです。多くの旅行者は、東京で、世界の多くの地域には存在しない、こういったコントラストを発見し、その魅力に引き込まれているのだと思います。
日本に長期的に住むことは考えていますか?
チューン氏:日本に根ざしていたい。仕事だけでなく、生活するにも、家族を育てるにも素晴らしい国です。 この3年間、仕事を通じて学んだことが多くあります。しかし同時に、しばらくここに留まって種をまき、その成長を見守ることができれば最高です。ですので、あと数年はここにいたいと思っています。
ザ・ペニンシュラ東京 総支配人 マーク・チューン
(General Manager, The Peninsula Tokyo)
ワシントン州シアトル出身。ウィスコンシン大学マディソン校でコミュニケーション学を学び、さらにコーネル大学でホスピタリティ・マネジメント学を修了。2001年、ザ・ペニンシュラシカゴの開業準備メンバーとして香港上海ホテルズ社に入社。シカゴで数々の管理職を歴任した後、2010 年にザ・ペニンシュラ東京のホテルマネージャーとして活躍し、2016年にザ・ペニンシュラマニラの総支配人に就任。2019年10 月よりザ・ペニンシュラ東京の総支配人を務める。
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