福永 健司
Life goes on - ライフ・ゴーズ・オン 外資系メガチェーンホテルで日本・グアム地区統括総支配人となり、国内外100人以上の総支配人と関わり、痛感したこと、学んだこと
待っていられない
「Life goes on, Show must go on」これが今のホテル業界の現実として求められている状況です。
つい数年前までは日本でのホテル開業はその経営的不安定さと様々な要因の中で遅々として進まず、故に部門長はおろか総支配人になる機会は非常に稀有な状況であった。国が旗を振り“ビジットジャパンキャンペーン”などを展開するも訪日外国人数の目標値である1000万人の壁に達することができずその数600-800万人という足踏み状態が長く続いたが東南アジア諸国に対する観光ビザ受給の緩和、そして円安により2014年以降のインバウンドビジネスの強力な後押しにより1000万人の壁を突破した後は3000万人を2018年に越え、その後に続くラグビーワールドカップ、東京オリンピック、カジノを含むIR(統合型リゾート)計画、そしてつい最近決定した大阪万博とホテルを含む観光業界は追い風が吹きまくっています。
この流れと金融、不動産業界の現在の経済環境下と相成り、長年の鬱憤を晴らすかのように多くのホテル開発・開業に結びつき今後、ホテル業界は未曾有の環境に突入することになります。
さて問題です。ホテルが増えると何が必要か?
そうです、先ずは総支配人とそれをサポートする部門長が必要です。ホテルは装置産業であり投資をし、建物を建てるわけですが箱は箱、館は館でありそれでは動きません。
誤解を恐れずに言えば建物は誰にでも出来ます。最近では“ラグジュアリー”あるいは“ライフスタイル”など百花繚乱で多くがデザイン性や素材、広さなど売りにしているがそれはそれで否定するものでなく消費者、ゲストの選択肢、そしてホテリエのモチベーションやイマジネーションを高めるものなので大いに進めるべきであろうと思います。然しながらハードは真似される可能性があり、また施設は老朽化、流行は廃れてしまうのが世の常です。
その一方で、ソフト、すなわちホテリエ自身の情熱、想像力、覚悟には無限の可能性があります。そしてそのホテリエ達を束ねるのが総支配人です。
繰り返しになりますがホテル業界は人手不足なのにも関わらず相当数のホテルがオープンするという経験したことのない異次元に突入します。この状況に対する特効薬はないですが総支配人の輩出こそが今後のホテル業界の行く末を決めてくると推測します。
皆様の応援歌になれば
ところが現実としてまだ総支配人職への育成中、開発途上であるが“機会”がすぐそこにあるので見切り発車をせざるを得ない方々も多く見受けられます。今直ぐに開業する数だけの総支配人が必要なのですが“見切り”が故の戸惑いや不必要な慄きを持つ方も見受けられます。自信をもって総支配人業務を遂行する段階まで成長することを会社も、ホテルオーナーも、マーケットも待っていられないのです。このコラムはこうすれば総支配人業として完璧である、などというおこがましいことを述べていくことはもちろんできませんが、著者の拙い経験と過去において接した内外の総支配人の方々の英知を含めた「心・技・体」をベースにした応援歌です。誰もが経験していない環境下の中、重圧と戦い、一人苦しみ、もがき、そして勇気をもって今日を生きる現総支配人の皆様、そして明日の総支配人業務を担うことになる皆様、そして全てのホテリエと総支配人と共にホテル運営を担われているアセットマネージャーの皆様の一助になれば幸いです。
職歴
フランス系リゾート運営会社、都内会計事務所勤務を経て、外資系ホテルメガチェーンにて、総支配人(シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル、セントレジスホテル大阪、東京マリオットホテル、ウェスティンホテル仙台等)を務め、サービス品質とブランド価値向上に努める。また兼任で日本・グァムエリア統括総支配人として、複数のホテルの新規開業、リブランド、セールス・マーケティング戦略、人事戦略構築に携わる。
2007年から大学や一般企業にてホスピタリティ科目の講師として、また2016年からは認定プロフェッショナルビジネスコーチとしてコーチング活動を通じて、ホテル業界の人材育成に取り組む。その他、ホテルマンのキャリアを論じた「キャリアデザインは口に出して言え」などのコラムがある。
日本大学法学部卒業。コーネル大学ホスピタリティマネージメントマスターサティフィケート取得。
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