今やさまざまな国で日本のアニメも漫画も翻訳版が販売されている。日本語が流暢な外国人はこれらで日本語を学んだという人も少なくない
コロナ禍を迎え、エンターテインメントの在り方に大きな変化を強いられる昨今、さまざまなジャンルで“ コンテンツ力” がより求められはじめた。またSNS をはじめとする、一瞬にしてグローバルにつながるオンライン市場とエンタメのつながりが強くなったことで、エンタメ市場の国境もなくなりつつある。そこで今回と次回、秋葉原を拠点にした、リサーチ力の高いビジネスコンサルティングやコンテンツプロデュースで定評のある㈲Imagination Creative 代表の方喰正彰氏にお話を伺う。
㈲Imagination Creative 代表
方喰 正彰 氏 Masaaki Katabami
東京・秋葉原を拠点とし、情報収集・分析を得意とするプランナー&編集者。企業・行政・個人の社外ブレーンとして事業や商品やサービスの企画・広報・ブランド構築など多岐にわたったプロデュースおよびコンサルティングを手掛ける。秋葉原と企業を結び付けるための稀有な存在として支持を得ている。寺院とのコラボ書籍、ローカル鉄道のグッズ企画など、個人から上場企業まで、業種・業態にとらわれずにさまざまなプロジェクトで実績を重ねている。現在は、段ボール蒸気機関車プロジェクトの事務局長や“執事のためのアパレルブランド”を立ち上げるなど多方面に活動をしている。主な著書に『マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命』(サンガ)、『とことん調べる人だけが夢を実現できる』(サンクチュアリ出版)がある。
ジャパニメーション人気の裏で疲弊するクリエイターたち
一般的に日本オリジナルのエンターテインメントコンテンツで世界での評価が高いものと言うと、今や“ジャパニメーション”と呼ばれる日本製アニメーションが挙げられます。有名どころで言えば「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」、スタジオジブリの作品が人気ですし、一般的にはあまり有名ではなくても、アニメファンにとっては必見といった作品も多数あります。最新のところで言えば「鬼滅の刃」でしょうか? これらの作品はアジアはもちろんのこと、欧米でも人気があります。このように日本のエンタメ業界は世界で勝負するに十分なコンテンツを持っています。
その一方で、コンテンツに対する付加価値の低さの問題が存在しています。中でも一番の問題はクリエイターたちの就業状態や雇用の問題です。例えばウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオなどは、ユニオンもしっかりとありますし、アニメーターをはじめとするクリエイターたちはさまざまな権利が保障され、高額なサラリーをもらう中で就業しています。しかし日本では正社員ではなく契約社員や個人事業主への業務委託として雇用されるケースが多くあります。作品ごとに百人規模の独立系のアニメーターや外部スタッフが集められ、作品が作られているのが現状です。この環境はいくつかのスタジオ以外はほぼ同じ状況と言えます。
JAniCA(日本アニメーター・演出協会)という団体が毎年データを取っているのですが、多くのクリエイターが福利厚生もなく、ボーナスもなく、社会的な保護がない中でサービス残業が多い就業体制で働いており、毎年問題視されています。新人アニメーターなどは残業代込みで月収が10 万円というケースも珍しくないです。クールジャパンの担い手とも言えるアニメ業界ですら多くの“作り手”“クリエイター”の立ち位置がいまだにこのような状況にあります。これはアニメに限らず、伝統工芸や伝統文化の世界の職人さんたち、さらに印税という形のボーナスがある場合もありますが、漫画家やそのアシスタントの方たちなどにも同様のことが言えます。
ちなみに漫画が原作の映画などがヒットした場合、興業収益は基本的にまず制作委員会の加盟企業に分配されますから(制作委員会方式の場合)、縁の下でその作品を支えたクリエイターたちにボーナスとして回ってくることはあまりありません。このように“作り手”“クリエイター”といった方々に対する“還元のスキーム作り”が日本は世界と比べてとても遅れているように思います。いずれの作品もスキルを持った人がいなければ作りえないものであるにもかかわらず、その作り手に対して、リスペクトを伴った評価がなされていない現実が存在していると思います。
昨今、この環境に疲弊してしまうことで業界を去ってしまう人も増えていますし、生活していけない現実に若者も作り手としての未来をあきらめてしまう傾向があります。伝統文化の世界でも後継者がいないことで素晴らしい技術が当代で終わりを迎えようとしているケースが日本中にいくつもあるのと一緒です。アニメにしても伝統文化にしても後進が育たなくては文化が衰退してしまいますので、雇用、そして保障の問題、さらに働き方の問題はクリエイター業界こそ火急に解決を求められているように感じています。
生み出し上手の育て下手
ところで先述のような問題に加え、日本はコンテンツを作ることにはたけているのに、そこに付加価値をつけて海外に売る点を不得手としている感があります。例えば日本の漫画やアニメを原作にした映画の実写化をハリウッドが制作して、逆輸入の形で日本人が見るといったことです。最近だとポケモンの「名探偵ピカチュウ」の実写化などがそうです。この作品、本来であれば日本で作ればいいのにとは思いませんか?そうすればコンテンツ活用におけるマネタイズのスキームも作れますから、作り手の人たちに利益が還流するスキームを作れると思うのです。
もちろん、海外への売り込みなども行なわれていますし、努力もしていると思いますが、えてして日本人はコンテンツのマネタイズに対してビジネスライクではない面があるように思います。結果として自分たちの資産を切り売りしてしまっていたり、良質なコンテンツが適正価格で提供されない(=結果としてクリエイターに還流されない)弊害を生んでしまっているように思います。日本もそろそろマネタイズを苦手とせず、戦術的・包括的にエンタメコンテンツや周辺産業におけるマネタイズを行ない、利益の還流をし得る体制を作るべき時を迎えているのではないでしょうか?
エンタメ業界のガラパゴス化
もう一点、日本のエンタメ業界が抱える問題にガラパゴス化があると思います。具体的に言うと、日本は内需でエンタメ産業が成り立つがゆえに日本独自の良さが育った一方で、日本人にしか通じない面白さでエンタメが確立してしまった面があります。これは日本人が日本語という難解な言語を扱い、高い知的水準やスキルを持っていることも起因していますし、日本のビジネス環境において自由度が低かったり、規制の多さが起因している面もあります。
例えばドローン。中国などでは花火大会さながらにドローンショーが人気ですが、日本では技術があっても(むしろ世界的に見て、かなりの高等技術を持ち得ていると言って過言ではないでしょう)、あのようなショーを行なうことが現状の規制の中では簡単にできません。花火にしても消防法の規制ゆえに花火大会やライブでのダイナミックな演出ができなかったりします。もちろん、安心安全の保障は大切なのですが、海外文化を導入する際にも法による障壁や規制があるがゆえに取り入れられないことも多く、エンタメ産業にとって歯がゆいことも多いと思います。その中でコロナ禍が起こったことにより、さまざまなセグメントにおける変化が求められている現在、日本のエンタメ業界も世界基準で勝負しうるローカライズをすることで新たな局面を迎えられるのではないかと思いますし、その試みを行なう時を迎えているように思います。
(取材・本誌 毛利愼 原稿 飯野耀子)
風景画像一つとっても日本の作画技術は高い。この文化を途絶えさせることなく、かかわる人皆がウィンウィンになるスキームができることが必要だと方喰氏は語る
方喰氏の書籍から『マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命(左)』『とことん調べる人だけが夢を実現できる(右)』。オリジナリティあふれる発想力に定評のある方喰氏ならではの著書だ