ドルフィンラグーンに沿った別棟
ロビーにある壁には、ニクソン大統領以来、すべての歴代アメリカ合衆国大統領の写真が掛けられている。このホテルを訪れたときに撮影されたものだ。大統領以外にも、多くのスターやシンガーなど著名人の姿を見ることができる。その中にある1 枚の白黒写真に引かれた。文豪、川端康成がベランダから池を眺めている写真。
川端康成は1968 年にノーベル文学賞を受賞した後、翌年から、ハワイ大学で教鞭をとっている。そのとき、カハラ・ホテルの和風バンガローに長期滞在していた。和風バンガローはラグーンに沿って建てられた別棟にあった。その部屋を見たいと思ったが、既に改装されていて存在しない。
このホテルは、10 階建ての“ タワー” と呼ばれるビルディングと、ラグーンに沿って建てられた“ドルフィンウイング” と呼ばれる別棟から構成されている。ラグーンで行なわれるイルカと一緒に遊ぶアトラクションは大人気。
だが、この管理には、よほど気をつけないとゲストの不満を招くことになる。
半年前に滞在したときは、においが鼻に付いた。今回は、完全に消し去られ、水の透明
度も増している。欠かさず大掛かりな掃除をしているという。これなら、ラグーンに面した客室に泊まることに問題は起きない。また、プールサイドからの海岸方向への眺めも以前より大きく開けていた。ヤシの木を取り除き、プールサイドからも広く海を眺められるようにしたのだ。ともに快適性を大きく向上させることに貢献している。
また、前回の滞在で不備と感じた2点が改善されていた。
以前は、デイナーを終えた後、テラスになっているバーでカクテルを飲んでいたら、海風が寒くて長居ができなかった。今は、透明な分厚いビニールカーテンで周囲を固め、眺望を失うことなく、夜風をシャットアウトしている。
二つ目はゲストルームのデスクにコンセントがなく、ラップトップの電源を取るのに苦労したこと。現在は、たこ足配線を装備して電源を増やしてある。
半年の間に、日本らしい“ きめこまやかさ”が形となりホテルを変えている様子を見ることができる。アメリカは文化的に大雑把。それがホテル運営にも強く反映されている。こうした日本的な配慮こそ、今のアメリカのホテルに必要とされているものであり、日本のマネージメントに成功をもたらす大きな武器となる。
アメリカの日本代表とも言えるこのホテルが、どこまで高い評価を得ることになるのか、これからが楽しみだ。
インターナショナル・ホスピタリティー・スペシャリスト 奥谷啓介
〈プロフィール〉シンガポールのウエスティン、サイパンのハイアット、そして、ニューヨークのプラザと、海外のホテルで20 余年の職歴を積んだ後、文筆活動を開始。ニューヨークを拠点に、日本のホスピタリティー産業の進化促進を訴え、講演およびコンサルタント活動を行なう。著書に『サービス発展途上国日本』(オータパブリケイションズ)、『世界最高のホテルプラザでの10 年間』(小学館)などがある。