インバウンドに関する政府目標が上方修正され、日本はいよいよ観光立国に向かう動きを本格化させていくことになった。2030 年に6000 万人の外国人観光客を迎え入れるという大目標を達成するために、観光産業は数多くの課題を乗り越えていかなければならない。また、日本の魅力を世界に向けて発信していくためには、各地方が未来に向けたビジョンを描き、それぞれが打ち立てた目標に向かって活気を取り戻していく必要がある。世界中の人々の多様なニーズに応えられる真の観光立国を実現するために、今求められるものは何なのか。国務大臣地方創生・国家戦略特別区域担当、石破茂氏と、衆議院議員国際観光産業振興議員連盟幹事長、岩屋毅氏が、観光を軸とした新たな日本の形について議論する。
聞き手・本誌 太田 進、村上 実/構成 長谷川 耕平/文 高澤 豊希/撮影 林 正
日本の成長、地方の活気を
観光産業の潜在力で取り戻す
□インバウンドの追い風もあり、観光業界は好調に推移しています。中長期の日本経済をマクロな視点でどのように見ていますか。
石破 かつて日本の地方が非常に豊かで、活気のある時代がありました。私は1957(昭和32)年生まれですが、私が育った鳥取の町も駅前はにぎやかで、シャッター通りなんてどこにもありませんでした。農山漁村にも活気があって、休日ともなれば観光客がわんさとやって来た時代が確かに地方にはあったのです。
私たちの世代が中学生、高校生だった昭和40 年代半ばから50 年代にかけて、日本の地方は間違いなく元気でした。ところが今は、どこへ行っても駅前は寂れたシャッター通りばかりで、お客さまも来てくれないという状況になってしまっています。
昭和40 年代から50 年代にかけて地方の活気をけん引していたのは、公共事業と企業誘致であり、そこから多くの雇用と所得が生み出されていたのだと思います。しかし2016(平成28)年になった今、公共事業がかつてのような雇用と所得を生み出すことができるかと言えば、財政的にも極めて厳しい状況ですし、人口が減っていく中で公共事業を拡大路線に乗せることは極めて難しいと言わざるを得ません。
こうした時代背景を踏まえて、これまで潜在的な力を発揮することなく続いてきた産業は何かと考えてみると、農業、漁業、林業、そしてサービス業、なかんずく観光業だろうと思いあたります。観光は伸びしろが大きい分野だと換言することもできます。インバウンドにとって大切なのは、「四季がはっきりしていること」「自然が豊かなこと」「文化、伝統、芸能、芸術の奥が深いこと」「食べ物がおいしいこと」の4要素だとデービッド・アトキンソン氏が『新・観光立国論』の中で述べています。
この4要素において、日本よりも上に位置づけられる国はそう多くはないはず。そう考えてみると、これから日本という国が成長し、地方が活気を取り戻していくために、観光が果たす役割はものすごく大きいと思っています。
岩屋 日本の高度経済成長を支えたのは、ものすごい勢いの人口増加だったのだと思います。石破大臣が言われた昭和40 年代、50 年代は、まだ人口が増え続けていた時代です。第二次世界大戦が終わったとき、確か日本の人口は約7000 万人だったと思います。東京オリンピックが1964 年に開催され、その2年後には1億人に達します。そこからさらに1億2700 万人まで、人口は増え続けていったわけです。
そして2008 年、2009 年に人口増加は遂にピークを迎え、日本の人口が減少に転じます。このままいけば2050 年には1億人を切って、約100年後には4200 万人になってしまうのではないかとも言われています。いずれにしても人口が減れば働く人の数は減り、消費する人の数も減っていきますから、そのままにしておけば経済はシュリンクすることになります。
私は現在の日本の経済政策において最も大きな壁となっているのは、需要不足だと考えています。では、どのようにして需要を喚起していくのか。ほとんどのものはすでに行き渡り、生活に必要なものはたいてい手もとにそろっています。ただし「旅行してみたい」という欲求は、多くの方々が持っていると思うのです。従って、今後の日本の成長戦略、石破大臣が取り組んでおられる地方創生においても、観光が最大の柱になっていくだろうと私は思います。
インバウンドに関する政府目標が上方修正されましたが、本当に2030 年に6000 万人のインバウンドが訪日するようになれば、滞在する外国人の消費額は15 兆円が見込まれることになります。
インバウンドの消費額は輸出勘定になります。今のところ日本最大の輸出産業は自動車の12 兆円ですから、その規模をはるかにしのぐ最大の輸出産業が日本に創出できるのです。日本はぜひ、そのゴールを目指して進んでいくべきではないかと考えています。