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HOTERES エンターテインメント! 500万人を魅了した段ボールアーティストが考えるエンタメ、そしてサスティナビリティ

【月刊HOTERES 2021年06月号】
2021年07月05日(月)
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六本木ヒルズが天空の駅と化した「特別展 天空ノ鉄道物語」。全長約7m、幅約2m、高さ約3.5mと、実寸大で再現された一号機関車とプロジェクションマッピングの融合が見せた世界観は来場者を銀河鉄道の世界へといざなった
六本木ヒルズが天空の駅と化した「特別展 天空ノ鉄道物語」。全長約7m、幅約2m、高さ約3.5mと、実寸大で再現された一号機関車とプロジェクションマッピングの融合が見せた世界観は来場者を銀河鉄道の世界へといざなった

宿泊施設や飲食店におけるエコやサスティナビリティに対する意識の高まりが求められる中、エンタメ施設やコンテンツにもSDGs やESG への意識が求められ始めている。そこで今回は段ボールアーティストとして世界的に評価の高い島英雄氏にエンタメとサスティナビリティの可能性について伺った。

段ボール工芸家
島 英雄 氏 Hideo Shima
1949 年東京都渋谷区生まれ、現福岡在住。75 年建築設計事務所を開設。94 年に下垂体腫瘍を患い療養のため休職。2000 年に復帰したが還暦を期に退職し、12 年より段ボール工芸家として活動を開始する。D51 形蒸気機関車の原寸模型を発表、14 年より2 年間をかけて全国17ヵ所を回る「D51 巡回展示」を実施。15 年の阪急34 形電車の原寸模型発表後、16 年に段ボール製品ブランド「ダンボール・ファクトリー」を東京秋葉原に立ち上げる。その後、C62 形蒸気機関車の原寸模型、一号機関車の原寸模型の発表。一号機関車は森アーツセンターギャラリー&スカイギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52 階)で19 年に開催された「特別展 天空ノ鉄道物語」で展示された。20 年、段ボールのもつ新たな可能性の追求と付加価値向上を図る取り組み、DC3(ディーシーキューブ)プロジェクト始動し、CARTONGEAR(カートンギア)ブランドを立ち上げる。同年、段ボール製C62 が世界最大の段ボール製立体芸術としての車両としてギネス世界記録に認定された。(画像©方喰正彰)

 
段ボールで家も車も遊園地も作れる!
 
 まずはなぜ段ボールという素材に惹かれたのかについて伺ってみた。「よくなぜ段ボールで機関車を? と聞かれますが、もともと子どもの頃から鉄道が好きだったことに加え、段ボールも好きでそれを集めて模型作りをしていました。当時はまだ段ボールがこんなに流通している時代ではなく、主に片面段ボールでした。また建築家として仕事をする際、建造物のモックを実寸大で作るのに段ボールを使用していたことやその際、強度計算やカーブを作る技術を得ていたことも理由としてはあります。そのような背景から大病を経て還暦を迎える際に、子どもの頃の夢だった実寸大の機関車を段ボールで再現(※既存の設計図面に加え、島氏自身で実際の機関車を採寸し、段ボール仕様の設計図に起こし、CAD に起こした上でパーツカットする)しようと最初の作品に着手しました。ちなみにパーツもすべて段ボール(※小さなもので100 個、実寸大の機関車は約3000 個作る)で作った上で、実際に動かすことが可能な作品に仕上がっているところが私の作品の特徴です。機関車に限らず、車でも飛行機でも場所と材料が揃えば作ることができます。過去には法的に許可が下りる住宅一棟を段ボールで作ったこともありますし、動くものは比較的作りやすいのでちょっとした遊園地であれば作ることが可能です。みなさんよく誤解されているのですがきちんと強度計算をして、接着をしたダンボールは鉄より軽く強度も高いのです。以前、あるモーターショーで2トンある車を斜めに持ち上げて展示する際、車を乗せる板は段ボールで作りました。これが鉄板だと上げている途中でしなってしまうのですが、段ボールだと大丈夫なのです。あんなに軽いものなのに不思議でしょう? この軽いのに強いという特性を活かして、現在、300 年の歴史を持つ矢の工房に新たに工房を作り、甲冑の制作を行なっています。実際に矢が刺さるかどうかなども実験し、実戦で通用するスペックを兼ね備えた甲冑で、戦国時代との違いは重さです。もしあの時代に甲冑が軽かったら、歴史が変わっていたかもしれません(笑)もうひとつ面白い取り組みとしては千利休の『妙喜庵待庵』を段ボールで再現しています。機関車もそうなのですが、私の作る作品はすべてパーツが分解できるように設計しているので、移動や組み立ても簡単にできます。『待庵』は女性一人でも30 分で組み立てられます。このように梱包材としてだけでなく、建築資材やプロダクトの素材としての可能性に満ちた素材だということをもっと広く知ってもらいたいとさまざまな分野における作品を手掛けています。エンターテインメントという観点からは、観光事業において段ボールで作ったアミューズメント施設は過去ほとんど事例がありませんので、他に例のない魅力創生の一つとしてそういったものを検討されるのも面白いのではないでしょうか?」。
 
 
感動について考えた瞬間
 
 ところで島氏には「D51 形蒸気機関車の原寸模型」を全国17 か所で展示した巡回展の折、“感動”について思う所があったという。
 
「このイベントはイオンモールとしては初の巡回展イベントで、最終的に全国で500 万人の方が来場くださったのですが、面白い傾向がありました。まず初日はおじいちゃん、おばあちゃんがいらっしゃる。すると次にお孫さんを連れて来られ、最終的にその子が親御さんと一緒に、もしくは一家で来られるというスパイラルが全国どの地域でも見られたことです。加えて、子どもたちが一様に『感動した』と言ってくれたり、手紙をくれたのです。もちろん大人も大勢の方が言ってくださったのですが、“D51”はもともと私自身の夢を叶えようと作ったもので人に見せるために作ったものではありません。使い古した段ボールでもこんなものができるのだよというのを示せたのはよかったと思いますが、本物ではなくなぜ段ボールの機関車にこんなにも多くの人が感動するのか? それを考えた際にふと、“感動ってなんだろう?” ということを考えました。おそらく、驚きたい、心が常ではない何かに動かされたいという非日常の体験を求める心が満たされた時に人は感動するのではないでしょうか? それであれば、例えば廃線となった列車の復刻を段ボールで行ない、当時の駅弁や時刻表も復活させたイベントを行なったり、実際に列車の中に乗れる仕様にしてVR 等の映像と組み合わせることでタイムスリップする体験を作るなど面白いと思います。おのおのの鉄道会社や地域と組み、その地に特化した取り組みをするのもいいでしょう。また鉄道という切り口は温泉などの観光資源がない地域の地方創生にも取り入れやすいですよね。
 
 先述しましたが私の機関車はすべて分解して移動することができますから、全国どこにでも簡単に輸送することができます。屋外における耐久性の検証もしっかりと行なっていますので、野外イベントに適う作品を提供することも可能です」。
 
 
段ボールはエンタメとサスティナビリティを共存させる
 
 上記の可能性に加え、段ボールの活用は時流にもかなっているという。「今、企業価値を見る際にESG への取り組みがとても大切になっています。その面から企業が段ボール資材を活用するという点は有益なことが多いでしょう。段ボールは廃棄される際に資源ゴミとして扱われますから、再生(※日本では97%リサイクル)という点において非常に優秀な素材だといえます。また解体可能に設計することで補修の際もパーツのみ交換すればよいので無駄な消費を削減できますし、エコにもつながります。先日起ち上げた「DC3 プロジェクト」の商材には段ボールで作ったベッドやトイレ、シンクなどもあるのですが、使っていない時は畳んでおくことができるのでホテルなどが災害用の備蓄として持っていてもそんなにスペースを必要としません。またそれらでコンセプトルームを作るなどは遊び心に通じる部分があるので、サスティナビリティとエンタメの両要素を共存した取り組みの実現にもつながります。若い世代の多くがSDGsに興味があることを考えても、これからのエンタメにはサスティナビリティの要素が不可欠だといえるでしょう。そういった意味ではエンタメを作り出す側の意識に変革が求められている時代が到来したともいえるかもしれないですね」。
(取材・本誌 毛利愼 原稿 飯野耀子)

“D51”を構成するパーツの数々。原寸大の列車がこんなにもコンパクトな形で運搬できるのも設計技術があってのことだ
“D51”を構成するパーツの数々。原寸大の列車がこんなにもコンパクトな形で運搬できるのも設計技術があってのことだ

2021年には“C62”で世界ギネスホルダーになった島氏。今後はDC3プロジェクトを推進し、さまざまな企業とのコラボレーションで実用的かつデザイン性の高い段ボール商材を発信していく
2021年には“C62”で世界ギネスホルダーになった島氏。今後はDC3プロジェクトを推進し、さまざまな企業とのコラボレーションで実用的かつデザイン性の高い段ボール商材を発信していく

​担当:毛利愼 mohri@ohtapub.co.jp

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