「彼を知り己を知れば百戦殆あやうからず」、有名な孫子の兵法の一つである。現代において経営者はコンペティターの動向を把握し、営業マンは営業先の現状把握が必須。時代は変われど、「相手を知る」という本質は変わらない。昨年から引き続き週刊HOTERES は、人脈マッチングスペシャリスト、TOP CONNECT㈱代表取締役 内田雅章氏をファシリテーターに、強い組織や成長著しい地域や企業の秘訣を探るべく、魅力溢れるリーダーとの対談を実現。第23 回は、1989 年の入行以来さまざまな地域活動や企業に関わってきた日本銀行広島支店長 松野知之氏に登場いただきお話を伺った。
日本銀行とその役割
国民が安心できる経済のために
内田 始めに松野さんが日本銀行に入行されたきっかけや理由について伺えますか。
松野 大学生として就職活動の時期を迎えたとき、私は金融業界と公的なセクターの二つに関心を持っていました。そして絞り込みをしていく中で「金融機関であり公的な機関」という視点から日本銀行に興味を持ちました。そこからは一般企業同様、面接試験を受け入行となります。
当時は「日本経済のために」の大きくも漠然とした想いを持って入行しました。そこから外からでは見えないさまざまな業務や経験を積むことで、自分が具体的にやるべきことが見えてくるようになったと感じています。
内田 日本銀行について少し細かくお聞かせいただけますか。
松野 みなさん日本銀行の名前は知っていても業務の内容はあまりご存知ないかもしれません。東京の日本橋にある本店のほかに全国に32 の支店があり、我が国唯一の発券銀行として国立印刷局が製造した日本銀行券を民間の金融機関を経由し、全国に流通させるという役割を担っています。また、本店では日本経済全体の分析や金融政策運営を行なっていますが、各支店ではその判断の材料となるような地元の経済状況の調査を行なっています。このほか、金融機関間での資金決済を行なうシステムを提供したり、国の資金に関する業務も行なっています。対個人の業務では、損傷したお金(銀行券や硬貨)の新しいお金への引換えなども行ないます。他にもさまざまな業務がありますが、すべてが「『円』という通貨を国民の皆さまに安心して、気持ちよく使っていただくこと」を目指して行なわれています。
内田 紙幣や硬貨の交換で、個人が日本銀行に行くこともできるのですか。
松野 そうです。個人の方でも日本銀行の窓口をご利用いただけます。損傷したお金の引換えは日頃から行なっていますが、特に大きな災害が起きたりすると大量の損傷したお金が持ち込まれます。東日本大震災のときには仙台支店が中心となりましたが、とても支店の人間だけでは対応しきれず、全国から応援の職員を派遣して泥まみれの紙幣や硬貨を連日処理しました。平時だけでなく、非常時においても『円』という通貨の価値を守り、被災者の方々が少しでも早く生活再建と復興に取り組むことができるよう、私どもとしても全力を尽くしました。
内田 業務内容以外に、上場していることもあまり知られていませんよね。
松野 はい。通常の株式とは異なり出資証券というものですが、JASDAQ に上場されていて、個人投資家の方も売買できます。通常の株と違い日本銀行法で配当が制限されているので、投資対象というより現物証券を手にすることができるという部分も含めて、コレクターアイテムとしての需要が強いようです。