終日営業で生産効率をアップ人員配置はフレキシブルに
----働き方改革を受けて、労働環境の向上についてはどのような施作を取られていますか。
短時間でいかに生産性を上げて労働環境の改善につなげるかということを常に考え戦っています。1 月にオープンした「ビストロカラト」では、昼営業、夜営業という形ではなく終日営業にすることで、お客さまが集中する時間を減らしました。メニューも終日同じです。大きな工場もそうですが、なるべく同じペースで同じ作業をする方が、人間の生産効率は上がりますが、レストランというのは生産集中型で、ピーク時にあらゆる状況に対応するという非効率な面があります。
そこで、店の中央にラウンド型のカウンターを据えることで、ピークタイム以外の時間には、ホールをスタッフ一人でも回せるようにしています。カウンター内のスタッフは、どの席のお客さまからも見えるので安心感があり、逆にスタッフからは店全体が見渡せます。さらに、料理の提供もカウンター内からできるのでスムーズです。こうしてお客さまが少ないときには労働力を減らし、多いときには増やす。このフレキシブルさが労働環境、経営面の改善にも重要です。
----非常に効率的ですね。
ただこれには相反する部分もあり、手間を省くために料理を作り置きしたり、出来合いの材料を使うことで労働環境はもっと良くなりますが、料理の品質は落ちてしまい、良いスタッフは育ちません。そこの駆け引きといいますか、品質は落とさず、手間暇もかけて、その中でいかに労働時間を短く生産性も上げるか。これは業界全体の今後の大きな課題と言えるのではないでしょうか。
----厳しい状況下で、人件費削減のためにやむなく人を減らしている店も多いと思います。
弊社にも社員が30 人、パート・アルバイトさんが約70 人います。このパート、アルバイトさんたちは、そのお店が好きな方や、そこで学びたいと思ってくださる方も集まってくれています。緊急事態宣言によって、休業になると、全く働けなくなります。貴重な人材ですし、会社としても人一人雇うためには費用をかけ求人し、教育もしていますから、辞めてほしくはありません。これまではなんとか雇用を守ってきましたが、緊急事態宣言に備えて、アルバイトさんには貸し付けなど特別な措置も準備しています。
----昨年も緊急事態宣言による休業期間があり、経営的にはかなり難しい部分もある中でビストロをオープンされました。
売り損じで言えばトータル数億円に達しており、まだ増える可能性もあります。
そんな最中に心斎橋PARCO に店をオープンするにあたって一つ掲げたのは、「仕入れも雇用も減らしたくない、だから利益はあきらめて、原価(仕入)を掛け、手間(雇用)を掛けて、たくさんのお客さまにお得に楽しんでいただき元気になっていただこう」ということでした。実際に現在、飲食フロアで一番の集客(売上坪効率)を保っています。私どもがさまざまな商業施設からオファーをいただけるのは、「入るからにはその施設を良くしよう」という思いがあるからだと思います。開業に際し協力していただいた分、恩返しのつもりで歩合賃料をたくさん払い、お客さまも集めて施設の資産価値を上げようという思いでやってきました。そう考えれば、いつか自分にも帰ってくると思いますし、実際にコロナ禍でも、さまざまな便宜を図っていただいている商業施設もあります。
また、休業をマイナスだけには終わらせたくありません。スタッフの成長につながるシーンも数多くありました。1 年前の休業期間には、料理長たちが自主的に、弁当や焼き菓子、煮込みの瓶詰めなどのいろんな商品を提案してくれて、検証を繰り返し商品として売り出しました。弊社では経営的な数字を全部オープンにしていますので、全店閉めたらどれぐらいの赤字が生まれるか、どれぐらいの補填が必要かなどを全社員が知っています。だから自分のできることはないか、何かしようと提案し行動してくれたのですね。実はそのとき生まれたテイクアウトメニュー「フレンチレストランのまかない」は、新しいビストロ業態にも生かしています。