ログイン
検索
  • TOP  > 
  • 記事一覧  > 
  • アジア視点で見る。日本の課題と 今ホテルが取り組むべき事項とは 阿部博秀 短期連載 From Hong Kong 第二回
阿部博秀 短期連載 From Hong Kong

アジア視点で見る。日本の課題と 今ホテルが取り組むべき事項とは 第二回

【月刊HOTERES 2021年02月号】
2021年02月28日(日)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


新型コロナウィルスで旅行需要が大きく減退する日本。本稿では2週にわたり、元日本ハイアットの代表取締役であり、その後香港のアジアのハイアット本社副社長としてレベニューマネジメントを担当した阿部氏のインタビューを通じ、アジアを中心とした世界各国との取り組みのギャップや阿部氏の考える今後ホテルが取り組むべき方向性について聞いた。第2回となる今回は今後の旅行需要回復期におけるインターナショナルホテルブランドのポテンシャルについて語っていただいた。

H.A. Advisors代表 阿部 博秀氏
H.A. Advisors代表 阿部 博秀氏

Profile
1985年に東京大学を卒業後、東京ガス株式会社に入社。その後コーネル大学ホテル経営大学院卒業後、パーク ハイアット 東京のマーケティング部長、宿泊部長を経て、ハイアット インターナショナル本社でグローバルマーケティングを統括。2006年に日本に帰国後、日本ハイアット代表として新規ホテル開発、国内ホテルの運営サポート。その後、香港アジア・パシフィックの副社長としてアジア地区約150ホテルのレベニューマネジメントを担当。2020年8月ハイアット退社後、H. A. Advisors, Ltd.を設立。H. A. Advisorsとしてハイアットと日本・ミクロネシアにおける新規ホテルプロジェクトの契約サポート業務も受注。香港中文大学非常勤助教授。


訪日外国人旅行者の拡大を背景に
増え続けたインターナショナルチェーンホテル

 
 訪日外国人旅行者数は東日本大震災の影響もあって落ち込んだ2011年の622万人を境に。2019年の3188万人まで右肩上がりの成長を続けてきた。それに伴いインターナショナルチェーンホテルも2011年以降着実に軒数を増やして来た(図1)。

図1. 2011 年以降の主要インターナショナルチェーンホテルの開業軒数(企業別)出典:週刊ホテル レストラン
図1. 2011 年以降の主要インターナショナルチェーンホテルの開業軒数(企業別)出典:週刊ホテル レストラン


 この成長の背景について、ハイアットでは開発も統括していた阿部氏は訪日外国人旅行者数の増加以外にも理由があると言う。
 
「まずは、ハイアット、マリオットなどは一般的にはInternational(or Global)hotel Operatorと呼ばれています。『外資系ホテル』という内と外を分ける言い方をしているのは日本だけかもしれません。オークラ ニッコー ホテルマネジメントはインターナショナルホテルオペレーターですし、今後も日本発のブランドが世界に出て欲しいと思います。ホテルオペレーターは運営に特化した会社ですから、ホテルを所有するオーナーの存在が必要です。日本ではこれまで長く、ホテルオペレーターがオーナーと賃貸借契約を結び、固定もしくは固定プラス変動の賃料を払うというスタイルがほとんどでした。ところが、インターナショナルオペレーターの場合、原則マネジメント契約(MC)かフランチャイズ契約(FC)しか受けていませんでした。それが過去日本でのインターナショナルチェーンホテル展開の一つの障害となっていました。
 
※編集部注記
世界では多くのホテル運営企業が資産(アセット)をできる限り小さくしようとするライト・アセット・ポリシーを導入している。その主な理由は二つ。一つ目は、国際財務報告基準(IFRS)ではリース契約、賃貸借契約も資産計上され、資本をどれだけ効率良く利益に結び付けられているかという自己資本利益率(ROE)が下がってしまう。その結果株価への影響を考慮するため。二つ目は、賃貸借契約の場合、特に景気低迷時にはキャッシュアウトが膨大な金額となり、企業継続に深刻な影響を及ぼすため。
 
 ところが、近年インターナショナルチェーンホテルが増えた理由は三つあります。一つ目は、増加するアジアを中心とした訪日外国人旅行者を取り込むことで、これまで以上の収益が期待できるということでマネジメント契約でもインターナショナルブランドを利用したいというオーナーが増えたこと。
 二つ目は、オーナーの多様化です。日本では過去、不動産=安定資産と考えるオーナーが中心でしたが、訪日外国人増加によるホテルキャッシュフローの増加を背景に、投資会社など不動産投資としてホテルを考えるオーナーも増えてきました。マネジメント契約は賃料収入ではありませんので、オーナーがホテルのための法人、SPCなどを作るなどし、従業員の雇用や業績悪化時の対応などオーナーがリスクを負うことにはなります。しかしながら、ビジネスが好調の時は賃料収入以上のアップサイドの収入を得ることができます。インターナショナルホテルブランドを採用することでそれが期待できると魅力を感じるオーナーが増えてきたのです。
 三つ目は、インターナショナルホテルオペレーター側のこの10年の変化です。オペレーター間の競争が米国、中国本土両方で激しくなり、オペレーターがブランドスタンダードをよりフレキシブルにし、ブランドの多様化を図っていきました。その結果オペレーターがライフスタイルブランドやソフトブランドなど多様なブランドを持つようになり、オーナーの選択肢が増えたのです」
(阿部氏、以下同)。
 
実際、阿部氏が指摘するようにマネジメントコントラクトでのホテル運営軒数は2011年から2015年までよりも2016年以降の方が倍以上増えている(図2)。

図2. 2011 〜2015 年、2016 年〜2020 年、それぞれの間に開業したインターナショナルチェーン ホテルの契約形態別数 出典:週刊ホテルレストラン
図2. 2011 〜2015 年、2016 年〜2020 年、それぞれの間に開業したインターナショナルチェーン ホテルの契約形態別数 出典:週刊ホテルレストラン

 
従来とは違った幅広いタイプのホテルブランドが、
幅広い地域に開業している

 
「前述のような背景でインターナショナルチェーンホテルが増える中で注目したいのは二つの点です。

① ホテルタイプの多様化
② エリアの拡大 


--- 

① ホテルタイプの多様化

 ホテルタイプの多様化というのは、以前であればインターナショナルチェーンホテルと言えばそのほとんどが複数のレストランや宴会施設を持つフルサービスホテルブランドでした。ところが、ここ数年は宿泊中心のセレクトサービスブランドや、ハードやソフトなどに個性を持たせたライフスタイルブランド、さらにはそのホテルの個性や独立性は保ちつつも送客ネットワークやマーケティングシステムなどの提供を受けるソフトブランド(マリオット・インターナショナルの『ラグジュアリーコレクション』や『オートグラフコレクション』、ヒルトンの『キュリオ・コレクションbyヒルトン』、ハイアットの『アンバウンドコレクションby Hyatt』など)まで幅が広がっています(図3)。

図3. 2011 〜2015 年、2016 年〜2020 年、それぞれの間に開業したインターナショナルチェーン ホテルのブランドタイプ別軒数 出典:週刊ホテルレストラン
図3. 2011 〜2015 年、2016 年〜2020 年、それぞれの間に開業したインターナショナルチェーン ホテルのブランドタイプ別軒数 出典:週刊ホテルレストラン


 セレクトサービスブランドではマリオット・インターナショナルが積水ハウスをパートナーに『Trip Base(トリップベース)道の駅プロジェクト』として道の駅に隣接する形で『フェアフィールド・バイ・マリオット』を昨年10月より順次開業しており昨年だけで4府県8カ所、2025年までに25道府県、約3000室規模を目指すと発表されたほか、日本では長い歴史を持つヒルトンも今後の話ではありますが『ヒルトン・ガーデン・イン』を2022年に京都に開業することを公表しています。また、アコーも近年は『イビス』関連のブランドを京都や舞浜など複数のエリアで開業していますね。
 同時にライフスタイルブランドのホテルも複数開業していますが、共通しているのはレストランや宴会場などを多くは持たないことによって収益率の高いホテルを目指していることです。これはオーナーがより投資効率を重視するためでしょう。
ソフトブランドにおいては、運営は基本的にオーナーないしオーナーの運営会社が主体となります。このソフトブランドホテルが増えているのはオーナーがホテルの独自性を打ち出したいと考えながらもインターナショナルホテルチェーンの送客とブランドシナジーには頼りたいと考えている点と、出店軒数を増やしたいと考えているインターナショナルオペレーターの思惑が合致しているからでしょう。多くはリブランディングのケースです」。
 
② エリアの拡大

 また、阿部氏はインターナショナルチェーンホテルの展開エリアの広がりについても言及している。
 
「インターナショナルチェーンホテルは以前は東京、大阪、福岡などの主要都市や国際的リゾート地での展開がほとんどでしたが、ここ5年は地方都市、地方リゾートにまで展開が広がっています。これは香港、台湾を中心にリピート数の高い訪日外国人旅行者が訪れたことのないデスティネーションに旅行していったこと。またインターナショナルチェーンホテルのブランド力が、地方自治体、経済にとって魅力的になったと見ています」。
 
 それでもインターナショナルチェーンホテルはまだ少ない。他国/都市との比較から見える日本の現状インターナショナルチェーンホテルが増え続ける日本。それでも一方で、阿部氏はまだ日本にはインターナショナルチェーンホテルの数が少ないと指摘する。
 
「弊社でアジア圏の主要都市別のインターナショナルチェーンホテルの軒数をリサーチしました(図4)。都市別では人口100万人あたりのインターナショナルチェーンホテル件数は、東京が2.0軒であるのに対し、シドニーは19.7軒と約10倍、香港で12.8軒、上海で11.4軒、ソウルで5.4軒、クアラルンプールで5.3軒と大きく差が開いています。この背景にあるのはインターナショナルチェーンホテルへの警戒感や、前述の低リスクの賃貸借契約志向にあると見ています。私の見方では、これから3倍ほどに増えてもおかしくないポテンシャルがあります」。
 

図4. アジア圏の都市別、人口100 万人あたりのインターナショナルチェー ンホテル軒数
図4. アジア圏の都市別、人口100 万人あたりのインターナショナルチェー ンホテル軒数


オーナーに知ってほしい今後のホテル開発。
インターナショナルホテルオペレーターを
より理解したパートナーシップが必要

 
 自身もインターナショナルオペレーターの日本法人代表として開発にもかかわってきた阿部氏。オペレーターの視点も理解しながら現在は国内のホテル開発、経営、再生に関するアドバイザリーも行なう視点で日本のホテル新規開発並びに既にオペレーターとパートナーを組んでいる関係者にアドバイスをいただいた。
 
「前述の通りインターナショナルチェーンホテルのポテンシャルは大きいと考えています。現時点では新型コロナウィルスの影響で外需は消失していますが、ワクチンの普及と新規感染の収束とともに、アジアトラベルバブルなど外需は間違いなく訪れます。さらにホテル開発は開業まで数年を要しますので、資材価格が抑えられ、供給の勢いが落ち着いている今年、来年は逆に言えばホテルを仕込むのに絶好のタイミングと言えます。またインターナショナルチェーンホテルにリブランディングを依頼するケースも増えています。
 その場合に、開発側、オーナー側が、インターナショナルオペレーターのメリット、リスクを長期的にもきちんと評価し、正しいパートナーシップを構築することが重要です。
 一般論では、インターナショナルホテルオペレーターの強みは世界各国のマーケットにアクセスするマーケティング、ブランド、レベニューマネジメント、サービススタンダード、共通購買、経理、予約などのシェアードサービスなどがあります。一方で日本独自のローカルマーケットへの対応という点では甘さがあります。例えば今回の新型コロナ危機の対応でみてみましょう。昨年2月に中国で感染拡大したのを機にすぐさま感染防止策、衛生管理をスタンダード化し、予約のキャンセルポリシーの見直し、マーケット別のシミュレーションによりレベニューマネジメントを調整するという施策をオペレーターは行なっていました。これらはグローバルの運営に特化した企業だからこそできるものと言えるでしょう。一方で、GoToトラベルキャンペーンへの予約システムへの対応や従来対象としてこなかった国内企業、エージェントへのセールスなど、やや時間がかかったこともあったでしょう」。
 
 さらに、阿部氏はインターナショナルホテルオペレーターの個々の強み、弱み、特徴を理解することも重要だと話す。
 
「まずはインターナショナルオペレーターと言っても北米、欧州、アジアそれぞれのマーケットにおけるブランド力、マーケティング力、ロイヤリティープログラムの会員ベースなど違いがあります。欧米のみならず、中長期的に中国のラグジュアリーマーケットに強いオペレーターをどうプライオリティーとして考えるか、などです。またライフスタイル、セレクトサービス、ソフトブランドにおいても各オペレーターはエリア別、国別に強み、弱みがあります。
 日本でのブランド力、マーケティングは特に重要です。特に新規開発、リブランディングにおいてはホテルコンセプト、デザイン、テクニカルサービス、プロジェクトマネジメント、アセットマネジメント力が大切です。また、宿泊、F&Bが強いか、人材育成、トレーニング力はどうか? GMは利益第一主義かそれとも利益とブランド力のバランス型か、オーナー対応はどうかなどオペレーターにとってGMの特徴の違いがあります。日本人GM、女性GMも含めダイバーシティーについてはどうか?シェアードサービスは日本で有効に働いているかなどです。さらにオペレーターの日本法人、拠点の役割の違いは大きい。例えば開発面、運営面、人事面での権限はどこまであるか、オーナーとのリエゾンオフィスとしての役割はしっかりしているか、などです。これら全てが最終的にホテルの収益に跳ね返ってくるのです。
 今まで競合オペレーターを分析し、情報交換もしてきた中で、企業文化、企業戦略の違いに加え、CEO並びにアジア、日本法人それぞれのリーダーシップ、個性によってによっても大きな違いが出てきます。ホテルオーナー、オペレーターのパートナーシップは10年、20年と続くものです。オペレーターの違いによるホテルの利益、ブランド、資産価値へのインパクトは大きなものがあります。オペレーター選定の際に、各オペレーターが提出する予想収益のフィージビリティースタディーを単純に比較することはできません」。
 
 最後に、阿部氏にウィズコロナ、ポストコロナにおけるオーナー、オペレーターとのパートナーシップについて聞いてみた。
 
「まずは日本独自のパートナーシップの進化があります。中国に比べてホテル開業数は圧倒的に少ないものの、インターナショナルオペレーターにとって日本マーケットの重要性は間違いなく大きくなっていきます。これはポストコロナにおける訪日客の回復、ホテル開発のクオリティーの高さ、オーナーの安定性などがあります。その結果オペレーターの日本拠点の重要性、人材投資などが将来的に行なわれていくと思います。インターナショナルチェーンホテルの地方進出に伴い、ホテルスタンダードのローカル対応、日本語化もさらに進むでしょう。オペレーター間の競争が、ソフトブランド、ライフスタイル、レジデンスホテルなど、訪日客だけに頼らないブランド力、オペレーション力をつけていくことに切磋琢磨していきます。伝統的な旅館とインターナショナルオペレーターとのパートナーシップも既に始まっています。
 もう一つの傾向は、オーナー・オペレーターのパートナーシップをサポートする、アセットマネジメント、プロジェクトマネジメント、運営専門会社、ブランディングカンパニーなどの役割も増していくでしょう。これらは米国や一部のアジアでおこなわれていいますが、特にインターナショナルホテルオペレーターと初めてビジネスを行なうオーナー企業、また日本未進出のホテルブランドとのパートナーシップにおけるケースがそうでしょう。一方で既にインターナショナルチェーンホテルを複数持つオーナーにとって、そのパートナーシップを見直す機会、リブランディングのニーズもあります」。
 
「香港にいますと、アジア投資企業、ホテルオーナー、アジアオペレーターの日本マーケットへの関心が非常に高く、問い合わせも多いです。これらの企業は新規案件のみならず既存のホテルのリノベーションなどに資金を用意し、パートナーシップもマネジメント契約からソフトブランドまで柔軟に考えています。安定したキャッシュフローを目指している企業も多く、ハゲタカファンドというイメージではありません。一方で日本のホテルアセットへのアクセス、パイプがないという課題もあります。旅館や中、小規模のホテルへの関心も高い。ポストコロナを見据えてこれらのパートナーシップでWin-Winの状況が生まれることを望んでいます。
 いずれにしても、日本はデスティネーションとして素晴らしい魅力を持った国です。旅館という海外には無い魅力的な宿泊施設もあります。アジアを含めた外需の重要性が増す日本において、インターナショナルホテルオペレーターの役割の可能性は大きくなっていくと思います。オーナー、オペレーターのパートナーシップはまだまだ発展途上です。私はこれまでインターナショナルホテルオペレーターで開発、運営両面に関わり勉強させてもらいましたので、微力ながら今後の旅行、宿泊市場の活性化に微力ながら貢献をさせていただければと思っています」。
 
 
【問い合わせ先】
H. A. Advisors
代表 阿部博秀
hiroabe@ha-advisors.com
 
 

月刊HOTERES[ホテレス]最新号
2024年03月15日号
2024年03月15日号
本体6,600円(税込)
【特集】ホテルの未来〜マネジメント人材の育て方〜
【TOP RUNNER】
デュシット・インターナショナル 京都地区エリア総統括支配人…

■業界人必読ニュース

■アクセスランキング

  • 昨日
  • 1週間
  • 1ヶ月
CLOSE