ログイン
検索
  • TOP  > 
  • 記事一覧  > 
  • 「旅館の事業承継と地方創生について」 ~地域一体再生のご提案~ 連載⑧ 旅館への貸付債権の実態
連載⑧ 「旅館の事業承継と地方創生について」 ~地域一体再生のご提案~

連載⑧ 旅館への貸付債権の実態

【月刊HOTERES 2018年05月号】
2018年05月11日(金)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

株式会社インテグリティサポート 代表取締役社長 桐明幸弘
ネクストステージ・コンサルティング 代表 大山美和
〈桐明幸弘プロフィール〉
福岡県出身、昭和55 年「東洋信託銀行」(現三菱UFJ信託銀行)入行、平成2 年に独立系のM&A 仲介専門会社「レコフ」に入社。外資系投資銀行を経て、平成13 年にトーマツグループのM&A アドバイザリー子会社入社。平成15 年より監査法人トーマツにて事業再生部門を立ち上げ、ホテル・旅館等を中心に事業再生支援サービスに従事。平成19 年に独立起業し「株式会社インテグリティサポート」代表取締役に就任。福岡市経営補佐顧問、神奈川県地方公社等専門部会委員、週刊ホテル・レストラン編集委員、太平洋クラブ株式会社社長など務める。
 
〈大山美和プロフィール〉
ネクストステージ・コンサルティング 代表
ファミリービジネス事業承継研究会 主宰
東京都出身、日本女子大学卒業、ボストン大学経
営大学院MBA 修了。米国公認会計士。
米系金融機関、大手会計事務所KPMGニューヨークにて勤務後、平成9年帰国して同社日本拠点の創設と主要大手金融機関の不良債権処理や事業再生アドバイザーのパイオニアとして活躍。平成15年デロイトトーマツに転籍し、企業再生に加えて国内外M&Aを含む総合的ファイナンシャルアドバイザリー業務を展開し、旅館・ホテルを含めたホスピタリティ業界の対応案件に多く関与した経験を持つ。現在は、独立して旅館に代表されるファミリービジネスの経営革新や事業承継案件に数多く携わり、また、宿屋大学をはじめとする講座やセミナーなどを通して、旅館・ホテルの経営者・後継者に向けた『ネクストステージ・コンサルティング』を展開している。

 
 前回からは、このスキームの各プロセスについて実行可能となる方法を解説しています。今回はこのスキームを進めるうえで最も重要な金融機関債権の時価による買取の仕組みについて解説したいと思います。
 
1. 旅館への貸付債権の実態
 
ア 旅館への貸付債権の特徴
 
 まず、旅館業を営む中小企業に対して、過去金融機関はどのような貸付を行なってきたかということですが、私どもが過去に事業再生場面で経験したことをベースにすれば、大きく分けて次のような特徴があったと思います。
 
土地・建物の不動産価値に着目して、その不動産評価をベースにした融資を行なっていた。バブル期には大きく不動産価値が向上したため、評価も甘くなり融資額が膨らんだ。
 
◇ 事業デューデリジェンスを基に、旅館の将来キャッシュフロー推移を予想した返済計画を策定して返済額を決めたわけではないので、旅館側では月次の返済額負担が非常に大きくなっている。
 
返済計画策定にあたって、将来必要となる修繕・補修・更新などの見積もりを行なっていないか、行なっていたとしてもかなり甘い見積もりとなっている。また旅館であれば、一定期間ごとに必要な新規の設備投資費用が、全く考慮されていない。
 
イ 債権の回収可能性
 次に、このような特徴をもった旅館への貸付債権は、その回収可能性を考えると実際計画通りの返済を実行している旅館は希少であると推定される。担保処分によって回収を図るとしても、その売却可能価額は非常に低くなることが予想されるため、バブル崩壊以降これまでの経緯として競売にかけられた事例は少なく、その多くは事業再建計画を策定して、リスケジュールによる返済猶予にて長期に渡る返済を実行している例が多いと思われます。
 
 しかし、この計画においても個別旅館の補修・更新費用の見積もりが正確に行なわれていないケースが多く、二次破綻に至るような事例も多くみてきています。このようにみてきたときに、旅館業に対する貸付金の回収には極めて長期の時間が必要となり、かつ将来的な設備の老朽化などを考えると、完全弁済が難しいのではないかと想定されます。
 
ウ 貸付債権の時価
 このような実態のある旅館への貸付債権は、その時価評価を行なうとすれば回収可能性という観点から、ほとんどが担保としている不動産の時価評価と同じになるのではないでしょうか。しかし、地方の旅館の場合は、多くのケースで土地は国定公園や市街化調整区域内にあるため、ほとんど無価値であるうえに、建物も老朽化が激しく補修なしで営業を継続することが困難であれば、むしろマイナス評価となるので、貸付債権の時価はほとんどゼロと予想されることになります。
 
 過去の事例では競売による処理が少なく、債権の譲渡や事業譲渡による回収を選択していたことの理由の一つがこれではないかと考えられます。
 
 ご留意いただきたいのは、この担保評価は当該旅館が倒産して競売となることを想定したものですので、地域一体再生で提案している、投資ファンドが金融機関から債権買取を行なう場合の時価は少々違ったものとなります。この場合には、事業が継続することが前提となりますので、従来の当該旅館のキャッシュフローから想定される年間弁済可能額の5 年分から10 年分の現在価値をベースに売り手と買い手で交渉することが一般的だと思われます。

月刊HOTERES[ホテレス]最新号
2024年04月15日号
2024年04月15日号
本体6,600円(税込)
【特集】本誌独自調査 2024年日本のホテルチェーングループ一覧〈前編〉
【TOP RUNNER】
リージェントホテル香港 マネージング・ダイレクター ミシェル…

■業界人必読ニュース

■アクセスランキング

  • 昨日
  • 1週間
  • 1ヶ月
CLOSE