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レポート

「受動喫煙防止法案(たたき台)」、 施行されれば経済損失は8401億円と予想

【月刊HOTERES 2017年03月号】
2017年03月24日(金)
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厚生労働省主導による「受動喫煙防止法案」の国会提出を控え、「法案のたたき台」について具体的な条項が次々と発表されている。本法案とのかかわりが強い外食業界においては死活問題となる事業者も多く、国側の厳しい姿勢に予断を許さない状況が続いている。そこで今回は2017 年3 月3 日に発表された富士経済が外食業界(計1020 店:居酒屋427 店/バー・スナック52 店、カフェ・喫茶店160 店、レストラン381 店)から取った「『受動喫煙防止法案(たたき台)』施行による外食市場への影響」のアンケート調査結果をもとにこの問題について考察する。

認知率5 割の現実
2020 年に開催予定の東京オリンピックに向けて受動喫煙に関する環境改善を図る目的で昨年厚生労働省より「受動喫煙防止法案(たたき台)」が公表され、業界団体からの公開ヒアリングなどを経た上で本年3 月の国会提出が発表された。
 
本法案にはホテル、旅館といった宿泊施設やレストラン、バー、居酒屋、スナックなどの飲食店もその対象として含まれ、分煙設備の設置や全面禁煙など厳しい規制内容が盛り込まれている。中小飲食店、特に小規模店舗の経営者が多く参加する業界団体などは経営存続の危機を強く訴え、一部規制案の修正がなされた。また年初には本誌既報の通り、外食産業界が一致団結し、本法案に対し現実的な内容となるよう働きかける意思を確認する決起集会も開かれ、過去地方行政単位で行なわれた受動喫煙防止条例の結果、宿泊施設、飲食店経営の経営悪化、倒産が起こった事案や本法案による懸念を日々訴え続けている。
 
しかし今回のアンケート結果から分かったことは、各事業者にとって死活問題ともなりうる本法案が関係者の約半分に存在そのものを「認知されていなかった」という集計結果(図①参照)だ。特にカフェ、喫茶業といった“喫煙可能”がサービスの一つとして評価されることも多い業態において5 割を超える非認知率だったことは、倒産への危機感を最も強く訴える関係者が多い業態であることを踏まえると、衝撃だったと言わざるを得ない。
 
EU 離脱やアメリカの大統領選に見られるように“無関心”が当事者自らの首をしめる事例は多々ある。そして宿泊施設や飲食店経営者が本法案内容や提出について“無関心”であることはその轍を踏む可能性を充分に持っている。本法案の存在および内容とおのおのの経営との関係性について今一度力を入れて告知、注意喚起しなければいけないことを認識した次第だ。
 

8401 億円という規模の損害とは?
次に現状の法案が施行されることで予想される経済損失も衝撃的な金額だ。8401 億円にのぼると算出されたその市場規模は、例えば福岡市の年間予算や外国語教育関連市場に相当する。日本を代表する地方都市の一つが、非常にポピュラーなビジネスジャンルの一市場そのものが立ちいかなくなるほどの金額が、たとえその一部だとしても自らの事業に“損害”として影響するという危機について読者には今一度、考えてみて欲しい。そして自身の事業という“単体”のみならず、地域や施設といった“コミュニティー”での未来についても今一度検証をしてもらいたいと思う。
 
もちろん弊誌は過去何度も表明しているように、この法案の骨子である「受動喫煙における健康被害への対策」の重要性に対し反対する立場ではない。しかし、宿泊および飲食店経営者へのサポートを第一義とする媒体としてこの規模の損害を“知らずして被る”ことだけは避けてもらいたいと考える。また自らの事業に危機的状況が訪れることが予想されるのであれば改善策、譲歩策について検討し、あげるべき声はあげることを勧める。厚労省にしても本法案の目的は多くの失業者を生み出すことではない。実際、スナック等小規模店舗に対しては譲歩案が当初案に織り込まれ、事態は声あるところに開けるということが証明されている。

 
短期回復が見込めない不安
今回のアンケート結果で次に注目する点は「売上金額への影響(図②参照)」と「売上金額に影響がある期間(図③参照)」についての数字だ。まず「売上金額」に関しては全体の57.6%、今回「原則建物内禁煙」対象から例外とされなかった居酒屋ジャンルにおいては75.4%が明確な減少予想および危機感を抱いている。居酒屋業態が例外対象にならないことが発表されて以降はさらに不安を抱く割合が増えているのではないだろうか? 次に「売上金額への影響期間」について。全体および各ジャンル総じて「見通しがたたない」という回答が最も多く、次に多い回答が「戻らない」といった予測だ。これは現状、たばこを吸うお客さまが多く来店することで成り立っている店舗にとっては現実味をもって危機感を持つべき数字であり、予測ではなく予定となりうる事態だ。そうであるならば“不安”に手当をせずにより不安を増幅させるのか? それとも考え得る打開策を思索し、発展的未来にむけた動きをするのか? 経営者として今後の方針を決めるべきときが今だということをこのアンケート結果は示唆している。
 
改善策はどこにあるのか?
最後に今回のアンケートに答えた事業者たちが具体的にどういった点で売り上げの減少や回復見込みへの不安、さらには廃業への危機感を抱えているのか検証してみたいと思う。まず売り上げや回復見込みの点においては圧倒的に多くの事業者が“変化”による来店客数の減少を懸念している。次に廃業への危機感は本法案の施行により分煙スペースを確保できない、もしくは確保するための設備投資資金がないといった点があげられている。逆に言えば分煙スペースの規定緩和や設備設置の資金があれば本法案の骨子に沿いながらも来店客数の減少におびえることなく、事業継続を可能とすることができるということになる。それであれば分煙設備設置のプロに各事業者の条件にかなった設置案を相談し、仕様案をもって規定緩和を訴えたり、予算を認識することで補助金制度の設置など具体的な陳情をすることで多くの事業者が経営危機に陥らず事業展開を継続することができるのではないだろうか? さすれば8401 億円といった多大な経済損失を逃れることも現実味を帯び、またおのおのの事業も発展的未来に向かっていくことが可能となるのではないだろうかと考える次第だ。

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