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ナイキミキ 地方創生〜その先にあるもの 

豊岡版DMO機構

2016年04月08日(金)
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日本の地方には大いなるポテンシャルがある。地方創生、日本版DMOなどで、脚光をあびるのはよいことだが、新たな取り組みや成功事例に固執するあまり疲弊する地方も少なくない。今やトレンドワードになりつつある地方創生。地域活性に取り組む当事者たちから話しを聞き、観光立国にふさわしい地方創生のあるべき姿を探ってみたい。今回は兵庫県豊岡市が今年2月に設立した「豊岡版DMO機構」をレポート。官民一体で観光による地域創生を推進する取り組みは、先進的モデルケースになるのでは、とその動きが注目されている。


2月19日に行われた「豊岡版DMO機構」記者会見の様子。豊岡市中貝宗治市長を代表に、WILLER ALLIANCE、全但バス、但馬銀行などが基金を拠出し法人化を行う。

洗練されたローカル&グローバルシティを目指す

 兵庫県豊岡市は、早い段階から地域ぐるみで情報発信、観光促進を行ない、中でも2009年より「豊岡エキシビション」という官民連携のイベントを行なってきた。近年ではインバウンド強化にも取り組んでいる。さらなる深化と発展を遂げるため、この2月「豊岡版DMO機構」を設立。その狙いを、中貝宗治豊岡市長に聞いた。
 
 「もともと豊岡市は地方創生として、人口が減少することを前提にした地域経済の活性化、魅力的な通年雇用を生み出すための主軸として観光に取り組んできました。それは一定の成果を上げてきましたが、行政の戦略だけでは、対価を生みません。民間とさらに連携を強め、自分たちの地域を再編集し、稼ぐ力を引き出し、元気な街へと深化させるのが設立の目的です」。全但バス、WILLER ALLIANCEなどと連携し二次交通の整備、Wi-Fiや携帯電話の様々なデーターを駆使したマーケティング・マネジメントを行い、観光とビジネスをつなげ、広域地域への観光誘客、雇用創出も促進していく。インバウンド事業にフォーカスし、2020年までに外国人宿泊客数を10万人までに増やしたい考えだ。宿泊予約サイトの運営、着地型ツアーの企画販売、豊岡ブランド商品の開発などで、地域事業者への売り上げ、利益の底上げにつなげる。
 
 「グローバル化が進み、地域が同じ顔になっています。文化的魅力も急速に失いつつある今、ローカルこそが輝くチャンス。コウノトリ、城崎温泉、かばん製造業などの地域固有の様式、そこに広がる営みなど、豊岡市のローカル性を突き詰めることで、世界の人から尊敬され、尊重される街になれる。人口は小規模でも、直接世界と結びつけるような『小さな世界都市』を目指しています」。   
      
 2014年には舞台芸術に特化したアーティストインレジデンス「城崎国際アートセンター」を整備。温泉とクリエィティブを巧み結びつけ、国内外から一流アーティストが集う施設となった。豊岡市には大都市とは違う価値観の豊かな暮らしがあり、観光を核に、世界の人々を相手にした魅力的な仕事もある。豊岡版DMO機構が、そのような雇用創出の受け皿にもなっていけば、地域にさらなる活力が生み出されるだろう。


中貝宗治豊岡市長。兵庫県、豊岡市生まれ。市長就任は3期目。コウノトリ野生復活事業を手がけるなど、コウノトリをシンボルに世界に通用する豊かな街づくりを推進する。

交通革新と街づくりの連携で地域の発展に寄与

 WILLER ALLIANCE (代表取締役=村瀨茂高)は、子会社のWILLER TRAINSを設立。2015年4月に第三セクターで経営不振が続く「北近畿タンゴ鉄道」の事業を引き継き、上下分離方式で運営をする。「京都丹後鉄道」(以下、丹鉄)に名称を変更、京都府の西舞鶴から宮津を経由して、兵庫県豊岡市に至る83.6㎞、福知山~宮津間を合わせると総距離で114kmを運行する。事業継承後、数々の改革を行い、この4月には天橋立〜豊岡間で、食を通じて沿線地域の魅力を発信する食堂列車「丹後くろまつ号」を走らせ、話題を振りまいた。また、WILLERグループは、運輸事業として全国20路線を持つ高速バスのWILLER EXPRESS JAPAN、ITマーケティング事業として、会員数320万人の予約サイトWILLER TRAVELを有する。


「FOOD EXPERIENCE」をコンセプトに、食を通じて沿線地域の魅力を発信する食堂列車「丹後くろまつ号」を運行開始。それぞれの食材に込められた歴史や文化、生産者の思いなどを映像化した動画を車内で楽しめ、沿線一体となったメニュー作りも行う。


車両は水戸岡鋭治氏のデザイン。天然木を贅沢に使った、落ち着いた雰囲気で人気は高い。この車内で、地域の食材を使用した料理が供される。前日までの予約が可能で、ツーリストにとってはうれしい配慮だ。

 「地元に愛される鉄道を目指す丹鉄にとって、豊岡市との連携は必然でした。沿線の先には城崎温泉もあり、インバウンドを視野にした豊岡市の戦略とも合致。何よりも、世界の中で豊岡市はどうあるべきか?という将来的ビジョンがはっきり見えており、毎年、方針をかえず積み立て、実行されていることに共鳴しました。組織の組成も早く、中貝市長の思いが職員に、きちんと理解されていることも重要でしたね」と村瀬代表は参画についての経緯を話す。そのために新たにWILLER CORPORATIONを設立、豊岡版DMO機構とがっちり取り組んでいくために本社を豊岡市におく。地域商社として実行の推進力の一翼を担い、地域の観光地を利便性よく繋いで回る交通ネットワークの拡充、Eコマースを活用した稼げる商品の造成、販売などを行う。
 
 「世界とつながるような継続的で活発な経済活動、利便性の高い安定的な交通インフラ、人が交流するコミュニティと街のにぎわい。これが当社の考える地方創生の3本柱です。20~30年後にどういう街になるかをイメージしながら、しっかりと取り組んでいきたいですね」。まずは手始めに豊岡市から取り組みを開始していくが、いずれはそれぞれの地方に場を広げていきたい、としている。

共有した価値観で、一致団結した街づくり

 開湯1400年。城崎温泉は多くの文人墨客にも愛され、昔ながらの木造旅館の街並みが残る風情溢れる温泉街だ。老舗旅館西村屋四代目当主で、城崎町長でもあった西村佐兵衞氏が残した『街全体を一つの宿と考え、駅、通り、旅館、外湯など、城崎に住むものは、皆同じ旅館の従業員』という理念を、街全体が共有し、その魅力ある温泉街を維持するために、地域が一致団結した取り組みを行ってきた。
 
 『長年、団体客や冬場の蟹目当ての集客に依存してきた温泉街でしたが、旅行のスタイルが多様化し、平成24年の宿泊者数が49万人(平成3年92万人)に激減したことに危機感を覚え、官民一体となって温泉街の活性化に取り組みました』と三木屋旅館の片岡大介氏は話す。「浴衣の似合う街」をキーワードに、閑散期には縁日や花火イベントを連日行い、また「文学のまち」として志賀直哉来訪100年を機に「注釈・城の崎にて」を発刊するなど、温泉旅館の次世代経営者である若旦那達を中心に、徹底した誘客活動で客足を伸ばしてきた。平成26年の宿泊数は66万人に達し、中でも若年層と外国人観光客は飛躍的に伸長した。
 


木造建築が立ち並ぶ街並みは、大正14年の北但大震災から復興した当時の面影を今も残す。観光客は柳並木沿いを、浴衣姿に下駄でそぞろ歩きしながら外湯巡りを楽しむ。その独自のスタイルが外国人観光客にも大人気。


現在、外湯は7湯。お財布を持たず、バーコード1枚で外湯巡りできる「ゆめぱ」というパスを宿泊客に発行しており、湯の混雑状況の発信など、データの一元管理化が進んでいる。

志賀直哉の定宿だった三木屋。 名作「城の崎にて」はここで生まれた。昭和2年築の希少な木造な建物は、登録文化財に指定されている。2013年大規模リニュアルを行い、ライブラリーを設けるなど、歴史とモダンを融合させた宿へと進化

西村屋は、江戸時代の創業。現在は、西村屋本館、西村屋ホテル招月庭 を運営し、客室数132室、従業員数285名を有す城崎を代表する旅館だ。代表の西村総一郎氏は、全旅連青年部の副部長も務める。

 その一方で、懸念もある。「ここ3年で観光客が増え、圧倒的な人材不足になっています。派遣に頼ると、生産性が低く、離職率も高い。世界に通用する城崎ブランドを維持していくためには、地域で人を育てていくことが急務です」と西村屋7代目当主西村総一郎氏。同社は社宅の整備、地元出身者が調理学校に通う場合の学費サポート、外国人スタッフの研修制度など、サービスの質の高みを目指す施策として人材育成、採用のプロジェクトを立ち上げ積極的に展開していくという。城崎温泉に住み、商売を営む人たちは、自分たちの歴史や文化を育み、共存共栄の精神を大切にしてきた。外国人観光客が急増するこの街に、想いを共有する新たな世代を、どう育成していくのか? 豊岡版DMO機構も、無関心ではいられないだろう。


 
現在、各地で積極的に進められている日本版DMOはデーターの収集や分析、多様な関係者との連携をうたうあまり、グランドデザインがないまま進行している場合も多い。また財源の確保は、補助金頼みという地域も少なくないようだ。そういう意味では、今回の取材で見えてきた豊岡版DMO機構の姿は、理念、財源、情報共有、実行力共に、官民連携のバランスが優れている例だ。だが、城崎温泉街としては、豊岡版DMO機構には注視の構えという。協力は惜しまないが、財源の確保には、まだまだ曖昧な点があるといい、リスク分担など密な対話が必要だとしている。それらの要素が地域にどのように波及していくのか。今後の動きに注目したい。
(取材・文=ナイキミキ)
 

ナイキ ミキ
ジャングル・ジャパン代表。京都を活動拠点にしながら、ファッション、アート、伝統工芸、観光、食などをテーマに、女性誌、旅行誌、ウエッブマガジンなどの企画、編集ディレクション、取材、執筆を行う。
京都北部の観光活性化事業、海の京都観光圏の発信にも携わる。

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